eぶらあぼ 2013.9月号
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39 日本フィルハーモニー交響楽団の首席客演指揮者であるピエタリ・インキネンが定期演奏会で待望のワーグナー・プログラム(字幕付き)を披露する。歌手として参加するサイモン・オニール(テノール)とはすでにワーグナーのアリア集をリリース(EMI)している。 「今回の演奏会では、ワーグナーならではの音楽の魅力を紹介出来るように、管弦楽作品、楽劇の代表的な作品を選びました」とインキネンが語るように「ジークフリート牧歌」、《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」、そして《ニーベルングの指環》から《ワルキューレ》の第1幕と、いわばワーグナーの“いいとこどり”といったプログラムとなっている。 「特に《ワルキューレ》の第1幕は、非常に多彩な音楽で作られています。まず荒々しい戦闘の音楽があり、その後にジークムントとジークリンデの再会があり、2人の感情が語られる。そしてフンディングが帰って来て、3人の緊張感が高まり、最後にはノートゥング(剣)が引き抜きかれて、その後のドラマの展開に関わる重要な要素が示される。ドラマとしても重要ですし、同時に音楽的にも盛りだくさんな第1幕は、指揮していてもやりがいを感じますね」 サイモン・オニール(ジークムント)、エディス・ハーラー(ジークリンデ)、マーティン・スネル(フンディング)という配役も魅力だ。 2008年に音楽監督に就任したニュージーランド交響楽団とはすでに《ワルキューレ》全幕の演奏会形式でのニュージーランド初演を大成功させた。 「ニュージーランドで初演が遅れていた理由は、歌劇場のピットが小さいために、ワーグナーの演奏に必要なオーケストラのスペースが無かったからです。今後は演奏会形式での上演も増えて行くかもしれませんね」 今年の3月から4月にかけての日本フィルの定期演奏会などで、インキネンは母国の作曲家シベリウスの交響曲ツィクルスを行い、緻密で、同時に新鮮な感覚に満ちたシベリウスの演奏を聴かせてくれただけに、今回のワーグナーへの注目度は高い。 「ワーグナーの楽劇を演奏会形式で上演するのは、特に音楽的な密度をそこなわずにワーグナーの世界を再現出来るという良さがあります。演出付きの場合だと、歌い手とオーケストラが離れていたりして、音響的なバランスをかなり緻密に考えなければなりませんが、そうした苦労は演奏会形式の場合はないので、より深くワーグナーの世界に迫れるのではないか、と思っています」 インキネンの緻密な音楽作りが、ワーグナーの新しい一面を開いてくれることに期待しよう。取材・文:片桐卓也日本フィルハーモニー交響楽団 第653回東京定期演奏会★9月6日(金)、7日(土)・サントリーホール ●発売中問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jpワーグナーのエッセンスをお聴かせします!ピエタリ・インキネン(指揮)インタビュー 常に聴き手の好奇心アンテナを刺激するような、テーマ性のあるCDをリリースし続け、ここ数年はその刺激をおみやげに来日公演を行ってきたダニエル・ホープ。名サポーターであり共演者であるセバスティアン・クナウアー(ピアノ)と共に、今年の秋も東京のトッパンホールへ登場する。 今回は《禁じられた音楽》という意味ありげなタイトルを冠したプログラムにより、さらに注目度が高まるだろう。メンデルスゾーンのソナタに始まり、ストラヴィンスキーの作風を想起させるシュルホフのソナタ第2番、そのストラヴィンスキーの曲、メシアンやラヴェ罪のない秀作たちに光を当てるダニエル・ホープ(ヴァイオリン)ル、アイスラー、さらにはガーシュウィンまでを並べた選曲。この一見脈絡がなさそうなラインナップの共通点は、20世紀前半においてユダヤ系民族などを弾圧したナチスが演奏を禁じた作曲家・作品ということだ。ナチスがドイツを支配してから80年となる今年、ホープが新たに光を当てるのは、政治に翻弄された“罪のない秀作たち”なのである。文:オヤマダアツシ★10月15日(火)・トッパンホール●発売中問 トッパンホールチケットセンター 03-5840-2222 http://www.toppanhall.comⒸHarald HoffmannⒸJukka Mykkanen

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