eぶらあぼ 2013.9月号
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171 ピアニストにとって、ショパンのエチュード全集を録音するということは一つの大きな挑戦だろう。東京芸大、イモラ音楽院で学んだ蔵島由貴。彼女の6年ぶりとなるこの録音には、今がまさにそれに挑むべき時だったのだろうと納得させられる演奏が収められている。作品10、25に加え、3つの新しいエチュードも収録。確かな技術、鮮明なタッチで奏でられ、自然な歌心にもあふれている。のびやかでダイナミックな表現が冴え、聴いていてとても気持ちのよい演奏。それぞれの楽曲の魅力が際立つようにとられているテンポ感、地に足のついた落ち着きのある音色も魅力だ。(高坂はる香)ショパン:エチュード全集/蔵島由貴ショパン:◎12のエチュード作品10 ◎同作品25 ◎3つの新しいエチュード蔵島由貴(ピアノ) 1920年生まれの大ベテランが、昨年7月に92歳!で開いたリサイタルのライヴ映像。「年齢を感じさせない」というと大抵はいくぶん逆の意味を含むものだが、この演奏はまさに字義どおり。90歳を過ぎた人の声とは到底思えない立派な歌唱で、音程も安定しているし、日本語の発音にも一切よどみがない、まさに奇跡の歌声。しかし、それをキープするためにおそらくは数十年にわたって続けてきた努力とたゆまぬ準備を、「奇跡」と一言でまとめてしまっては失礼だろう。表情もチャーミング。特典映像には、演出家・栗山昌良ら当日のゲスト・トークも収められている。(宮本 明)栗本尊子 コンサート in ヤマハホール中田喜直:◎霧と話した ◎子守唄 ◎夏の思い出 山田耕筰:◎鐘が鳴ります ◎この道 ◎ばらの花に心をこめて 他栗本尊子(メゾソプラノ)皆川純一(ピアノ) 他 第15代札幌コンサートホール専属オルガニストを務めたポーランドの若手による録音。「このホールのオルガンの多彩な魅力を紹介したい」というコンセプトで選ばれた8人の作曲家の作品を収録。フランスのレゾンやグリニ、ポーランドのトゥルヌミールといった演奏機会の少ない名曲も楽しめる。カチョルの演奏は、明るくまろやかな音色と安定感抜群のテンポが特長。これまでに多くの名手が録音を残してきたJ.S.バッハ「トッカータとフーガ」で見せる明晰さはその最たる例だ。また、リスト「葬送」では編曲も披露。今後の活躍が実に楽しみだ。(渡辺謙太郎)きらめく光〜音楽の精神(エスプリ)/マリア・マグダレナ・カチョル◎レゾン:「パリ人の王に栄えあれ」 ◎J.S.バッハ:トッカータとフーガ ◎シュレーダー:トッカータ ◎リスト(カチョル編曲):葬送 ◎トゥルヌミール:「復活のいけにえに称賛をささげよ」によるコラール即興曲 他マリア・マグダレナ・カチョル(オルガン) ウィーン・フィル首席チェリストのヴァルガと、ウィーンで最も注目されるピアニストの一人であるヒンターフーバー。共演経験も多く、気心の知れたデュオが取り上げたのは、19世紀末ウィーンゆかりの2人の作曲家の作品。特に、ブルックナーの弟子で楽器製作者でもあったモールの作品は、人間の内面を抉る彫りの深さと、聴く者にそっと寄り添う歌心を併せ持つ。伸びやかで豊潤なチェロの音色と、繊細なタッチのピアノが、そんな知られざる作品の魅力を余さず掬い上げ、新たな息吹を与えている。併録のツェムリンスキーの名ソナタも滋味にあふれ、紛うことなき秀演だ。(笹田和人)ツェムリンスキー&モール:チェロ・ソナタ/タマーシュ・ヴァルガ◎ツェムリンスキー:チェロ・ソナタ エマヌエル・モール:◎アリア ◎チェロ・ソナタ第1番タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ)収録:2013年3月、埼玉、三芳町文化会館(コピスみよし)オクタヴィア・レコード OVCT-00097 ¥3000収録:2012年7月19日、東京、ヤマハホール(ライヴ)カメラータ・トウキョウ CMDV-00001 ¥3150収録:札幌コンサートホールKitara札幌コンサートホールSCH-015 ¥2000収録:2013年4月、ウィーン、シンフォニア・スタジオ(コンツェルトハウス)カメラータ・トウキョウ CMCD-28286 ¥2940CDCDCDDVD

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