Bar Dice(バー・ダイス)

 私見だが、いいバーには2種類ある。ひとつは気心の知れた友人や知人たちと杯を交わす大人のサロン。もうひとつは誰にも教えたくない秘密の隠れ家。どちらも人生の宝物のような存在であることに変わりはないが、銀座6丁目の地下にひっそりと佇む「Bar Dice」を「後者」と答える飲み手は多いような気がする。

オーナーの藤田大介さん

オーナーの藤田大介さん

 オーナーの藤田大介さんは、リーガロイヤルホテル東京のバー勤務などを経て、2011年に銀座で独立。店内は、石と木が調和した温かく重厚な内装、ローカウンターと高い天井の絶妙なコントラストが生み出す開放感などが特長だ。デザインは、映画やテレビの美術制作会社の名門「ヌーヴェル・ヴァーグ」が手がけたものだという。
「私が好きで通っていたバーの内装が、たまたまこの会社によるものが多かったのです。20代の頃にお酒を買いつけに行っていた、北イタリアの農村のイメージで、とお願いしました」
 そのお酒というのが、今や幻のグラッパ(ブドウの搾りかすを発酵させたアルコールの蒸留酒)として名高い「ロマーノ・レヴィ」。バックバーには数十本ものボトルが所狭しと並んでいる。
「アランビッコと呼ばれる直火式の蒸留器で作ったこのグラッパに初めて出会ったのは、北イタリアのレストランで食後酒として供された時。あまりに豊潤で洗練された美味に衝撃を受け、すぐさま造り手に直接会いに行きました。このボトルは、ラベルを一つひとつインクやペンなどで手描きした一点ものであるのも大きな魅力。2008年に造り手が亡くなったため、価格は高騰してきていますが、リーズナブルなボトルもご用意しておりますので、気軽にご相談ください」
さまざまなレヴィのボトル

さまざまなレヴィのボトル

こだわりのボトルが揃う

こだわりのボトルが揃う

 グラッパだけでなく、ウイスキー、ブランデー、リキュールなどの希少ボトルをバランスよく揃えている「Dice」だが、藤田さんはカクテルの名手としても有名。カウンターには美しいシェイカーが置かれ、バックバーにはラリックやドームなどのアンティークグラスが多数並んでいることからも、その情熱が静かに伝わってくる。そんな彼が最も好きなカクテルと挙げるのが、ブランデー・ベースの「サイドカー」だ。今回は味や色合いとの相性を考えて、金彩で縁取られた1900年代のドームのグラスに注いでくれた。
「ブランデーは、エレガントな味わいの『フラパン』を使用。オレンジキュラソーは『グランマニエ』と『コアントロー』を混ぜ合わせ、前者を若干多めにしています。私のカクテルで最も大切にしているのは、材料として使用するお酒や果汁などの香りを立たせること。そのために温度を高めに設定して作る場合も多いですね」
1900年代のドームのグラスに注がれたサイドカー

1900年代のドームのグラスに注がれたサイドカー

 続いてロング・カクテルのお薦めにと作ってくれたのが、ラム・ベースの「モヒート」だ。
「ラムは『ハバナクラブ3年』で、甘みは『トロワ・リビエール』のシロップと、徳島の和三盆を混ぜ合わせて使用。でも、私が最もこだわっているのはミントですね。ブラックスペアミントとキューバ・ミント(イエルバブエナ)を1対1で使用するのですが、このブラックスペアは、本来のレシピで使うキューバ・ミントを品種改良したもの。長野の友人の農園に依頼して作ってもらいました」
ミントにだわったモヒート

ミントにだわったモヒート

 こうしたカクテルに対する考えには、「Dice」の客層も影響しているそうだ。
「食後にいらっしゃるお客様が多いので、ソリッドでシャープな味わいよりも、香り高くてほんのり丸みのあるものを提供したいのです」
 藤田さんはクラシック音楽にも造詣が深く、店内にはバロック音楽が静かに流れており、重厚で広がりのある空間に合った厳粛さを巧みに演出している。銀座の音楽ホールで素晴らしい演奏に酔いしれた後、その余韻を静かに冷ましたり、逆にその興奮を再び温めてみたりするひととき…。「Dice」には、それぞれの聴き手と飲み手にふさわしいお酒が揃っている。
取材・文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人

Bar Dice(バー・ダイス)
東京都中央区銀座6-9-13
第1ポールスタービル B1F
電話:03-6228-5228
営業時間:[月〜金]18:00〜翌2:00 [土]15:00〜24:00
チャージ:¥1000