【特別記事】トランペット首席・古田俊博が語る、ベートーヴェンが鳴らす「勝利の凱歌」

2018-19シーズン開幕はマエストロ・チョン・ミョンフン指揮ベートーヴェン《フィデリオ》(演奏会形式)。楽聖の唯一のオペラに書きこまれた音楽は圧倒的な説得力を持って聴くものの心に響きます。マエストロ・チョンとのマーラー「交響曲第5番」ほか、数々の名曲で共演を重ねてきたトランペット首席・古田俊博が語ります。

トランペット首席奏者 古田俊博 
C)上野隆文

「奏者のもっているものを引き出してくれる」
マエストロ・チョン・ミョンフンとのリハーサル

「マエストロ・チョンとの共演でいつもありがたいのは『多くを語らずに奏者の持っているものを引き出してくれる』ところ。リハーサルが早く終わることがありますが、『自分で明日までにこれだけの準備をしなければならない』という余裕と良い意味でのプレッシャーを残してくれる。一日ごとに集中力が上がっていくというのは気持ちのいいものです。金管楽器奏者には一瞬一瞬の集中力が重要ですから。

名誉音楽監督チョン・ミョンフンとのリハーサル

 ベートーヴェンはマエストロが大好きな作曲家ですから、それは緊張しますよ。ただ、トランペットには、そんなに音数がありません。その音でオーケストラにどんな色をつけるかというところが重要です。どんな作品でもそうですが、トランペットは他の楽器と合わせたときに様々な色が生まれる。それを演奏しながらも楽しんでいます。1月にマエストロとモーツァルトの交響曲第41番『ジュピター』を演奏しましたが、マエストロは、リハーサル初日は「あなたたちの好きなように」という感じでやる。2日目はぐっとマエストロの目指す音になる。互いの音楽を出し合いながら変わってゆくのです。


 ベートーヴェンの調性へのこだわり、オーケストラの高揚をもたらす「プレスト」

マエストロ・チョン・ミョンフンとのコンサートより
C)上野隆文

 ベートーヴェンは調性にこだわりのある作曲家です。『フィデリオ』の『レオノーレ』序曲はC-dur(ハ長調)で書かれていて、トランペットにとっては“ヴィクトリー・コード”、勝利の凱歌を鳴らす曲。ベートーヴェンこそC-durの本当の強さ、エネルギーを使っているのではないかと感じます。一方この作品の中で「バンダ」(舞台裏)で演奏するファンファーレはB-dur(変ロ長調)と、また工夫が凝らしてあるのも聴きどころです。
 僕はオーケストラ全体が互いの演奏で活気づいたり、刺激を与え合ったりするのが望ましいし、本当の音楽なのだと思います。ベートーヴェンではトランペットの出番の直前に弦楽器が「プレスト」で急速に盛り上げてくるシーンが数々あります。僕たちは休符の間もオーケストラがどんなふうに音楽を作ってくるかを見て、それと同じ度合いで音楽に加わる必要がある。東京フィルは特に、本番でさらに期待を上回ろうとするところのあるオーケストラですから、演奏していても非常にエキサイティングなのです」

(2018年1月のインタビューより)


第906回 オーチャード定期演奏会
2018.5/6(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
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第907回 サントリー定期シリーズ
2018.5/8(火)19:00 サントリーホール

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第117回 東京オペラシティ定期シリーズ
2018.5/10(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

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指揮:チョン・ミョンフン(東京フィル名誉音楽監督)
ドン・フェルナンド(バリトン):小森輝彦
ドン・ピツァロ (バス):ルカ・ピサローニ
フロレスタン (テノール):ペーター・ザイフェルト
レオノーレ (ソプラノ):マヌエラ・ウール
ロッコ(バス):フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ
マルツェリーネ(ソプラノ):シルヴィア・シュヴァルツ
ヤッキーノ(テノール):大槻孝志
合唱:東京オペラシンガーズ 他

ベートーヴェン/歌劇《フィデリオ》
(ドイツ語上演・字幕付・全2幕・演奏会形式)

※終演時刻は予定のため、変動することがございます。予めご了承ください。

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