《魔笛》伝説の名演出誕生秘話(1)

 初演から39年が経つ今なお、伝説の名演出と呼ばれる《魔笛》。演出家アウグスト・エヴァーディングとともにこのプロダクションを手がけた美術家ユルゲン・ローゼによる誕生秘話を3回にわたってご紹介していきます。
 まずは二人が最初に考えをめぐらせたエピソードから。

エヴァーディングは“監禁”された?!
 エヴァーディングもローゼも、《魔笛》に関して湧き上がる多くのイメージやアイデアを、できることならすべて盛り込みたいと思っていたそうです。
「私たちは例えば、夜の女王には豪華なサロンを想定していました。つまり、ザラストロの領域との対比として、非常に女性的な世界を示そうと考えていたのです。ザラストロの世界は、岩場に建てられた厳格な建築をイメージしていました。3人の侍女の外見はどうするか、鳥のような格好をさせて大蛇と同様の寓話的な存在にするのか、あるいは戦士のように見せるべきかなど、さまざまな案を考えました」
 細部までの話し合いを記録するために、ローゼはスケッチを書いたのだと語ります。実は当時、二人のこの話し合いの時間を確保するために、ローゼは自宅にエヴァーディングを“監禁”しなければならなかったそうです。
「この時間はすばらしいものでした。エヴァーディングからはアイデアがとめどなくあふれ出て、内容的なつながりや流れ、そしてこの作品の音楽に関する彼の考えは本当に刺激的でした。イメージを具体化したいという気持ちが私を強く駆り立てました」
 もっとも、その後実際に稽古が始まると、エヴァーディングはさらに新しく思いついたアイデアを持ち込むことになったとか。エヴァーディングが強く主張したことの一つに、この作品は継ぎ目なく上演されなければならない、ということがあったそうです。
「舞台機構を駆使したとしても、荷台が出入りしたり、数メートルの壁が開閉したりするのに、常に数秒の時間がかかります。そういったとき、場面の進行の途中に舞台転換を組み込むために、演出家が舞台上での動きを考え出す必要が生じることもありました。その点で言えば、エヴァーディングは達人でした」

その2に続く

ユルゲン・ローゼによるデザイン画
夜の女王と3人の侍女、そしてタミーノとパパゲーノが描かれている

ユルゲン・ローゼによるデザイン画
3人の童子に導かれるタミーノが描かれている

ユルゲン・ローゼによるデザイン画
とらわれたパミーナ、モノスタトス、パパゲーノが描かれている

【公演日程】
バイエルン国立歌劇場日本公演

《魔笛》
作曲:W.A.モーツァルト
演出:アウグスト・エヴァーディング
指揮:アッシャー・フィッシュ
9月23日(土・祝) 3:00p.m.
9月24日(日) 3:00p.m.
9月27日(水) 6:00p.m.
9月29日(金) 3:00p.m.
会場:東京文化会館

■予定される主な出演
ザラストロ:マッティ・サルミネン
タミーノ:ダニエル・ベーレ
夜の女王:ブレンダ・ラエ
パミーナ:ハンナ=エリザベス・ミュラー
パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ
パパゲーナ:エルザ・ベノワ

※表記の出演者は2017年1月20日現在の予定です。

http://www.bayerische2017.jp/