アダム・フィッシャー インタビュー(1)

Photo:Lukas Beck

Photo:Lukas Beck

 今秋の《ワルキューレ》は、“ワーグナーのスペシャリスト”として認められている指揮者、アダム・フィッシャーの登場に大きな期待が寄せられています。ここでは、ウィーンで《ニーベルングの指環》のチクルス上演を控えた、ウィーン国立歌劇場の月刊広報誌に掲載されたインタビューを、3回にわたってご紹介します。
(ウィーン国立歌劇場月刊広報誌より 聞き手:オリヴァー・ラング)

■ 指揮としての原点

――あなたはコレぺティトゥーアとしてキャリアをはじめられましたが、それはあなたのその後の指揮活動において、日常的にどの程度役立っているのでしょうか?

フィッシャー:コレぺティトゥーアは歌手と一緒に働きます。ですから歌手が持っている問題や、歌手ができることなど、すべてを学ぶことになります。どのように歌手たちの助けになることができるか、彼らがどう呼吸し、歌声はどのようにして生まれるのか、そして、そういうことに対して何に気を配らなければならないのかをです。歌手の直面する障害を知り、どうすれば「正常に歌えるのか」を知っていれば、彼らの歌唱につき添い、助力することが可能になるのです。私は指揮をするにあたって、その作品のすべてをコレぺティ稽古したことがあるべきだと主張したいわけではありません。いくつかの曲を学んだことにより、他の曲を推定することもできるでしょう。しかし疑問の余地なしに、私にとってコレぺティトゥーアの経験は大きな助けとなっています。そしてもちろん私は当時ピアノを弾きながら、指揮者たちの手並みを批判的に観察していました。22、23あるいは24歳のころは、誰でも知ったかぶりをしたがるものです。けれども、よくわかっているつもりでも、実際にやろうとするとうまくゆかない(笑)。いや本当に、私はそのころ多くのものを学びました!

――「歌手に対する助力」とは具体的にどのようなものでしょうか?

フィッシャー:
私は指揮者として状況を見極める必要があります。歌手がフレーズのはじめに呼吸が不足している場合、当人が気づくのに先んじて、指揮者は楽なテンポに上げることで、最後まで歌いきれるようにしなければなりません。また歌手の音声上の疲労を感知した場合は、オーケストラの音量を弱めて、歌手がオペラ全曲が終わるまで持ちこたえられるようにする必要も生じます。こうした経験知を時とともに得てきたのです。


■《ワルキューレ》の「死の告知」の場面では、毎回、鳥肌がたちます。

――そうした直接的な対処のほかに、指揮をする際にどういうことをお考えになりますか? たとえば《ニーベルングの指環》を指揮する場合、構成のアナリーゼ、ライトモティーフやその使われ方など、歌手たちとプローベの際に話し合われるのでしょうか?

フィッシャー:
まずはじめに、「リング(通り)」で《指環》について思索しますよ(笑)。私は上演中はその任務に集中しているように思います。つまりこういうことです。多くの場合、プローベの段階で話し合いがもたれます。何らかの言葉で表現されたり、何らかの象徴についてとか。しかし私の興味をひくものはわずかです。なぜならすぐに私が彼らに影響をおよぼすことはできないからです。私はむしろ技術的な課題に思いをめぐらせます。例えば、どの個所でオーケストラを鳴らし過ぎないように気をつけなければならないか、とか。そして当然のことながら演奏解釈について考えます。まったく無意識のなかからアイディアが生まれ、感情によって発展してゆくこともあります。《ワルキューレ》の「死の告知」の場面では、毎回、鳥肌がたちます。

――そうした自発的な感情の到来は、指揮者にとって歓迎すべきことなのですか?

フィッシャー:
歓迎すべきことか、そうでないのか、私にはどうすることもできません。もちろん指揮者としての私に課せられた任務は、私が鳥肌をたてることでなく、聴衆にそうしたものをもたらすことです。私は自分の鳥肌について語るのではなく、金管楽器が歌いだすようにしなければなりません。そうじゃありませんか?

《ラインの黄金》 (ウィーン国立歌劇場2016年1月公演より) トマス・コニエチュニー(ヴォータン)、ボアツ・ダニエル(ドンナー)、ノルベルト・エルンスト(ローゲ) Photo:Wiener Staatsoper / Michael Poehn

《ラインの黄金》
(ウィーン国立歌劇場2016年1月公演より)
トマス・コニエチュニー(ヴォータン)、ボアツ・ダニエル(ドンナー)、ノルベルト・エルンスト(ローゲ)
Photo:Wiener Staatsoper / Michael Poehn

《ワルキューレ》 (ウィーン国立歌劇場公演より) Photo:Wiener Staatsoper / Michael Poehn

《ワルキューレ》
(ウィーン国立歌劇場公演より)
Photo:Wiener Staatsoper / Michael Poehn

R.ワーグナー作曲
《ワルキューレ》
指揮:アダム・フィッシャー
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
11月 6日(日) 3:00p.m.
11月 9日(水) 3:00p.m.
11月12日(土) 3:00p.m.
会場:東京文化会館

■予定される主な出演
ジークムント:クリストファー・ヴェントリス
ジークリンデ:ペトラ・ラング
ブリュンヒルデ:ニーナ・シュテンメ
ヴォータン:トマス・コニエチュニー
フリッカ:ミヒャエラ・シュースター
*表記のキャストは2016年4月8日現在の予定です。

■入場料(税込)
S=¥67,000 A=¥61,000 B=¥54,000 C=¥49,000 D=¥33,000 E=¥25,000 F=¥17,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000

ウィーン国立歌劇場2016年日本公演公式HP
http://www.wien2016.jp/

●2演目・3演目セット券 [S, A, B券] NBS WEBチケット&電話受付
4月23日(土)10:00より
NBSチケットセンター:03-3791-8888


●全公演のS〜D券
一斉発売開始
6月4日(土) 10:00より