【特別インタビュー】ペトラ・ラング(3)ワーグナーを語る(指環、イゾルデ、パルジファル)

 ぺトラ・ラングの得意とする持ち役の一つブリュンヒルデは、ワーグナーの作品中でも最重量級の難役。声量・スタミナ・表現のすべてにおいて超人的な力が求められるこの役をいつもどう歌いきるのか?
取材・文:山崎太郎 写真:吉田タカユキ

「《ニーベルングの指環》全曲上演となると、ブリュンヒルデはまさに三つの異なるパートを続けざまに歌わなければなりません。しかも高低の起伏がとても大きく、喩えて言えば、ローラーコースターに乗っているような感じです。アストリッド・ヴァルナイからはスタミナ配分と役作りに関して、こんなアドヴァイスをもらいました。『《ヴァルキューレ》は基本的にメゾの声域で書かれているけど、それはヴォータンこそが最高位にある支配的存在であることをワーグナーが示そうとしたため。パパが上司だということを絶対忘れず、あまり全力で声を張りすぎないように。ひと晩寝て《ジークフリート》になると、新たに目覚めた若い女性として、高音を歌わなければならないけど、リラックスした軽い声で力をセーブするの(ラング曰く、「オーケストラ伴奏付きのシューベルトの歌曲のような気分で」)。ブリュンヒルデ歌いは《神々の黄昏》でが本当の勝負を賭けるのよ』 
 《神々の黄昏》では夫の裏切りを知って、突き刺すような高音で怒りを爆発させますが、やがてすべてを悟り、世界を救うわけです。彼女の知性と優しさは母親である叡知の女神エルダから来るものでしょう。この役で求められる多様な声域と表現は、神の娘が愛の様々な様相を体験することで大人の人間女性に成長するプロセスを示すためのものであり、大きな変化と発展があるのが、この役の素晴らしいところでもあります」

 二年前から歌い始めたイゾルデも、同じくホッホ・ドラマーティッシュ(極めて劇的な)・ソプラノに分類される難役だ。

「三つのブリュンヒルデが一晩に凝縮されたようなパートですが(笑)、第1幕では中声域中心、2幕から3幕で徐々に高い音域になってゆくというように、声の配分がしやすく、気に入っています。これからもどんどん歌っていきたいですね」

 最後に、2002年の東京公演以来、彼女が長年歌ってきたクンドリー役について質問した。その答えを聞けば、この歌手の役への取り組みが単にテクニカルなことにとどまらず、微細な作品解釈のレベルにまで行き渡っていることが感じられよう。

「第2幕のクンドリーはあらゆる手を尽くしてパルジファルを誘惑しようと試みますがうまくゆかず、最後に自分の話を持ち出すわけです。キリストに『笑いを浴びせたlachte』と歌った瞬間、声もオーケストラも数秒間沈黙します。このとき彼女はもう一度、現在・現実のものとして、十字架上のイエスの清澄な瞳に出会うということでしょう。その視線を“今ありありと”思い浮かべることで、私ははじめて次のフレーズ『彼の眼差しが私を貫いた』を歌うことができるのです。このゲネラルパウゼ(総休止)とその直前のlachteにおける(この役の最高音ロから下の嬰ハ音への)2オクターヴに近い下行は、クンドリーの人生の亀裂と深淵を示すものであり、この前後の二分間の音楽に彼女という人格の最も深奥に潜むものが凝縮されているのです。

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■【特別インタビュー】ペトラ・ラング(1)ワーグナーを語る(ローエングリン)
http://ebravo.jp/harusai/archives/5806
■【特別インタビュー】ペトラ・ラング(2)歌曲を語る
http://ebravo.jp/harusai/archives/6112

■東京春祭 歌曲シリーズ vol.22
ペトラ・ラング (ソプラノ)

2018.3.23(金)19:00 東京文化会館 小ホール

■出演
ソプラノ: ペトラ・ラング
ピアノ: エイドリアン・バイアヌ

■曲目
ブラームス:
 セレナード op.106-1
 われらはさまよい歩いた op.96-2
 愛のまこと op.3-1
 傷ついた私の心 op.59-7
 永遠の愛について op.43-1
マーラー:
《リュッケルトの詩による5つの歌曲》
 私はほのかな香りを吸い込む
 美しさゆえに愛するのなら
 私の歌を覗き見しないで
 真夜中に
 私はこの世から姿を消した
マルクス:
 森の幸せ
 雨
 日本の雨の歌
 ノクターン
 愛がおまえの心に宿ったなら
R. シュトラウス:
 響け op.48-3
 あなたは私の心の王冠 op.21-2
 あなたの黒髪を私の頭に広げてください op.19-2
 悲しみへの賛歌 op.15-3
 解き放たれて op.39-4
 懐かしい面影 op.48-1
 2人の秘密をなぜ隠すのか op.19-4

■料金
S席 ¥6,200 A席 ¥4,600 U-25* ¥1,500

■チケット発売日:11月26日(日)10:00
*U-25チケットは2018年2月9日(金)12:00発売開始
 

東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.9
《ローエングリン》(演奏会形式/字幕・映像付)

2018.4/5(木)17:00、4/8(日)15:00 
東京文化会館 大ホール

■出演
指揮:ウルフ・シルマー
ローエングリン:クラウス・フロリアン・フォークト
エルザ:レジーネ・ハングラー
テルラムント:エギルス・シリンス
オルトルート:ペトラ・ラング
ハインリヒ王:アイン・アンガー
王の伝令:甲斐栄次郎
ブラバントの貴族:大槻孝志 髙梨英次郎 青山 貴 狩野賢一
小姓:今野沙知恵 中須美喜 杉山由紀 中山茉莉
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:トーマス・ラング、宮松重紀
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
映像:田村吾郎(RamAir.LLC)

■料金
S席 ¥22,100 A席 ¥18,000 B席 ¥13,900 C席 ¥10,800 D席 ¥7,700 E席 4,600 U-25* ¥2,500
■チケット発売日:11月26日(日)10:00
*U-25チケットは2018年2月9日(金)12:00発売開始