音楽ライター・高坂はる香がおすすめする東京春祭

 WEBぶらあぼANNEX東京・春・音楽祭2018特設サイトでは、クラシック音楽に詳しい各界の著名人にそれぞれの立場から東京春祭の魅力と、おすすめ公演をアンケート、ご紹介する。第2弾は、音楽ライターの高坂はる香。


━━あなたにとっての東京春祭の魅力、楽しみ方は? 

せっかく気持ちの良い季節だというのに一日中部屋にこもりがちなフリーランスのライターなので、東京春祭のおかげで桜の季節の上野に出かけるきっかけができる、ということがまずうれしい。
 この音楽祭ならではの演目や演奏家が聴けることはもちろん、いつもと違う時間帯に美術館や博物館に入ることができたり、コンサート後に夜桜見物ができたりと、普段のコンサート以上の非日常感が味わえるところも魅力だと思う。


━━おすすめ公演3つ。それぞれのおすすめポイントは?

●コンスタンチン・リフシッツ (ピアノ・指揮)
~J.S.バッハ ピアノ協奏曲全曲演奏会 (3月30日、4月1日)

リフシッツが長年向き合い続けているバッハを取り上げ、2公演でピアノ協奏曲全曲を演奏、それも弾き振りという大変なプロジェクト。ピアノ好きにとって注目の公演ではないだろうか。リフシッツの演奏の魅力は、もはやピアノとは思えないような特別な質感の音を響かせながら、音楽を緻密に構築して壮大なスケールで聴かせてくれること。今回は、普段彼が1台のピアノで実現していることを、オーケストラとともに行うことになるのだから、彼の考えるバッハの壮大な宇宙が、より思い通りに再現されるのだろうと楽しみ。共演が、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアという、優れた若手演奏家が多数参加するオーケストラだということも良い。

●名手たちによる室内楽の極(きわみ)
~コルンゴルト《弦楽六重奏曲》(3月29日)

切れ味の良い技巧と豊かな音楽性を持つ男たちが集い、今度は何を演奏するのか。プログラムの発表を毎年ひそかに楽しみにしているのが、この「名手たちによる室内楽の極」シリーズ。以前リハーサル風景を取材したとき、ご本人たちがその丁々発止のやり取りをとにかく楽しんでいる様子なのも印象的だった。今回弦楽六重奏で演奏されるのは、コルンゴルト。美しく刺激的なアンサンブルに期待している。

●ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.39 上野耕平(サクソフォン)(3月29日)

バッハの時代には存在しなかったサクソフォンで、注目の若手奏者の上野耕平が、バッハの魅力を現代によみがえらせる。たっぷり音の響く法隆寺宝物館エントランスホールで聴けるのも嬉しい。タイミングがよければ、ちょうど傍らに桜が咲く重要文化財の黒門から夜のトーハクに入ることができる。休憩中は、バッハよりずっと古い時代の宝物の展示を眺め、再びバッハの音楽に戻るという非日常体験も楽しい。
ちなみに、上記の「室内楽の極」公演と日時がかぶっていて、本当に悩ましい……。

文:高坂はる香(音楽ライター) 

【Profile】
音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者としてコンクールやピアニストの取材を行う。2011年よりフリーライターとして活動。「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の制作に編集長として携わるほか、雑誌、CDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体の記事を執筆。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社、1月26日発売)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/


【公演情報】
コンスタンチン・リフシッツ (ピアノ・指揮)
~J.S.バッハ ピアノ協奏曲全曲演奏会 Ⅰ

2018.3.30 (金)19:00 東京文化会館 小ホール

コンスタンチン・リフシッツ (ピアノ・指揮)
~ J.S.バッハ ピアノ協奏曲全曲演奏会 Ⅱ

2018.4.1 (日)15:00 東京文化会館 小ホール

名手たちによる室内楽の極(きわみ)
~コルンゴルト《弦楽六重奏曲》

2018.3.29 (木)19:00 東京文化会館 小ホール

ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.39 上野耕平(サクソフォン)

2018.3.29 (木)19:00 東京国立博物館 法隆寺宝物館エントランスホール