【特別インタビュー】ペトラ・ラング、ワーグナーを語る(ローエングリン)

 この数年でブリュンヒルデやイゾルデなど、ワーグナーの楽劇の中でも最重量級の役柄を次々とものにし、メゾから本格的なドラマチック・ソプラノに飛躍を遂げた感のあるぺトラ・ラング。彼女にとってこの転換は突然のものではなく、先達や師の助言を仰ぎながらの長い準備の賜物だった。
取材・文:山崎太郎 写真:吉田タカユキ

■メゾからソプラノへの変遷

 「学生時代にはアラベラや《フィガロの結婚》の伯爵夫人などを歌いましたが、高音が安定せず、しっくり来ませんでした。そこで先生と相談して、《セビリアの理髪師》のロジーナや《フィガロの結婚》のケルビーノなど、とりあえずはメゾの定番コースとなる諸役を歌いながら、自分の声がどの方向に発展してゆくかを見定めようと考えたんです。私が17年間師事したイングリッド・ビョーナーはいつも『あなたには低い声がない。中声域を強化し、安定させなさい』と言っていました。
 伝説のワーグナー・ソプラノ、アストリッド・ヴァルナイからも多くの指針をもらいました。『メゾでもカルメンは歌わないほうがいい。まずはワーグナーのメゾの諸役をものにしなさい。そのうえで高音が伸びて安定してくれば、ブリュンヒルデ、イゾルデに行ける。あなたの声は柔らかいから、メタリックな響きが要求されるエレクトラは将来も歌うべきではないでしょう』と。そこで2000年代に入り、クンドリーとオルトルートを歌いながら、今日を期したのです」

■オルトルートのスペシャリスト

 オルトルート役はすでに80回以上歌い、スペシャリストとしての評価を確立している。
 「邪悪で悪意に満ちた性格には抵抗も感じますが、声域は自分にフィットするし、思い切り表現できるので、この役を歌える機会をこれまで貪欲に求めてきました。異なる演出を体験することで、この役のさまざまな側面を出すことができたと思います。
 例えばカスパー・ホルテン演出(ベルリン・ドイツ・オペラ)のオルトルートは動きも少なく、感情を表に出すことのない冷淡な女性です。アンドレアス・ホモキの演出(ウィーン、チューリヒ)は対照的で、体型からして太っており、外見も表現もあらゆる点で醜さや邪悪さを強調していて、これを受け容れるには大きな抵抗がありました。これまで演じたなかでは、バイロイトのノイエンフェルス演出が最高ですね。すべての役について心理的な掘り下げが深く、オルトルートも単なる邪悪さではなく、侮蔑や憤懣そして嫉妬など、人間的な感情の段階が細かく描き分けられていて、とても興味深いキャラクターになっているんです。自分のオルトルートがこのプロダクションで映像に残ったことをとても喜んでいます」

■大きな可能性が見いだせる演奏会形式

 東京・春・音楽祭ではどんなオルトルートが聴けるのだろう。
 「演奏会形式には舞台装置や衣装や演出家の解釈に縛られず、素の自分から出発できるというメリットがあります。余計な要素を無理に付け加えることなく、声だけで性格を表現し、役柄を造型してゆくことはとても重要ですし、楽しいものです。《ローエングリン》という作品についても、そのことで大きな可能性が見いだせると思っています」

※インタビュー第2弾「ペトラ・ラングが語る歌曲の世界」は12月末公開予定、第3弾「ペトラ・ラングが語るワーグナー(指環4部作〜トリスタン)」は1月末公開予定です。

■東京春祭 歌曲シリーズ vol.22
ペトラ・ラング (ソプラノ)

2018.3.23(金)19:00 東京文化会館 小ホール

■出演
ソプラノ: ペトラ・ラング
ピアノ: エイドリアン・バイアヌ

■曲目
ブラームス:
 セレナード op.106-1
 われらはさまよい歩いた op.96-2
 愛のまこと op.3-1
 傷ついた私の心 op.59-7
 永遠の愛について op.43-1
マーラー:
《リュッケルトの詩による5つの歌曲》
 私はほのかな香りを吸い込む
 美しさゆえに愛するのなら
 私の歌を覗き見しないで
 真夜中に
 私はこの世から姿を消した
マルクス:
 森の幸せ
 雨
 日本の雨の歌
 ノクターン
 愛がおまえの心に宿ったなら
R. シュトラウス:
 響け op.48-3
 あなたは私の心の王冠 op.21-2
 あなたの黒髪を私の頭に広げてください op.19-2
 悲しみへの賛歌 op.15-3
 解き放たれて op.39-4
 懐かしい面影 op.48-1
 2人の秘密をなぜ隠すのか op.19-4

■料金
S席 ¥6,200 A席 ¥4,600 U-25* ¥1,500

■チケット発売日:11月26日(日)10:00
*U-25チケットは2018年2月9日(金)12:00発売開始
 

東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.9
《ローエングリン》(演奏会形式/字幕・映像付)

2018.4/5(木)17:00、4/8(日)15:00 
東京文化会館 大ホール

■出演
指揮:ウルフ・シルマー
ローエングリン:クラウス・フロリアン・フォークト
エルザ:レジーネ・ハングラー
テルラムント:エギルス・シリンス
オルトルート:ペトラ・ラング
ハインリヒ王:アイン・アンガー
王の伝令:甲斐栄次郎
ブラバントの貴族:大槻孝志 髙梨英次郎 青山 貴 狩野賢一
小姓:今野沙知恵 中須美喜 杉山由紀 中山茉莉
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:トーマス・ラング、宮松重紀
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
映像:田村吾郎(RamAir.LLC)

■料金
S席 ¥22,100 A席 ¥18,000 B席 ¥13,900 C席 ¥10,800 D席 ¥7,700 E席 4,600 U-25* ¥2,500
■チケット発売日:11月26日(日)10:00
*U-25チケットは2018年2月9日(金)12:00発売開始