東京のオペラの森 ワーグナー《タンホイザー》


 稀にみるイタリアからのオペラ来日公演ラッシュ、当然演目もイタリアものに集中。おまけにモーツァルト関連のコンサ一トもたけなわ、ときている。今年のワグネリアンはかなり欲求不満になっているに違いない。「ワーグナーをナマで聴かないと生きていけい!」そんな方々を“救済”するのが「東京のオペラの森」《タンホイザー》だ。ワーグナーの音に飢えている人、来年3月までしばしご辛抱を!
「東京から音楽文化を世界に向けて発信すること」を目指し、小澤征爾を音楽監督に迎えて発足した「東京のオペラの森」も今回で3回目。これまでに《エレクトラ》《オテロ》など、重量級の作品をとりあげてきたが、いよいよワーグナーの登場となるわけでこれは見逃すわけにはいかない。
 話題はなんといってもマエストロ小澤征爾その人。休養生活も終わり、すでに日本でも指揮活動を再開している小澤にとって、これがオペラ復帰第1弾となる。ウィーン国立歌劇場でも4月に《オランダ人》を指揮することが発表された。オペラ復帰の演目がワーグナーとなれば、相当高いテンションで演奏に臨むだろうからハイ・パワーのサウンドが聴けるのは必至。上野の森で凄いことが起こりそうな気配。チケットの確保はお早めに。
 ここでとくに注目すべき歌手をご紹介しよう。
 まずはタイトルロール。昨年のバイロイトでタンホイザーを歌ったステファン・グールド。アメリカが生んだヘルデン・テナーの逸材で、今年のバイロイトでもジークフリートを歌った。来年以降もヨーロッパの主要歌劇場でワーグナーを中心に出演することが決まっている。この11月には新国立劇場で《フィデリオ》のフロレスタン(オペラ・デビューを飾った役)を歌うので、ぜひ聴いておきたい。
 次に領主ヘルマンに扮するベテランのアンドレア・シルベストレッリ。深みのある重々しいバス、いわゆるバス・プロフォンドと呼ばれるタイプのシルベストレッリはオールマイティな実力派で、バスの重要な役のほとんどをレパートリーとしているのは驚異的だ。イタリア、アメリカなど各国のオペラ・ハウスで活躍してきた彼だが、最近ではシカゴ・リリック・オペラに《リゴレット》のスパラフチーレでデビューし成功を収めたという。 1999年には新国立劇場《カルメン》で来日、ダークな魅力をふんだんに漂わせたエスカミーリョをご記憶の方も多いはずだ。
 ヴェーヌスには若手のメゾソプラノ、ミシェル・デ・ヤング。ワーグナーは彼女の中心的なレパートリー。アメリカ各地で多くの役を歌ってきたが、2004年にはバイロイトのオープニング、ブーレーズ指揮《パルシファル》のクンドリーに抜擢された。サイトウ・キネン・フェスティバル松本での公演にも参加しているので、小澤との相性も良いはずだ。
 「フランスで一番のバリトン」と称される人気急上昇中の若手、リュドヴィク・テジエがヴォルフラムで出演するのも魅力的だ。パリ・オペラ座をはじめウィーン国立歌劇場など、ヨーロッパで活動の場を広げつつある俊英。リヨン歌劇場《ランメルモールのルチア》のライヴDVD(TDKコア)でチョーフィとアラーニャと共演、味のある演技と卓越した歌唱を披露している。
 最後に演出について。今年は日本でも鬼才ペーター・コンヴィチュニーの演出による公演が2つも行われ話題を呼んだが、演奏だけでなく「演出」に対する関心が一般ファンの間でも高まっている観がある。パリ・オペラ座とバルセロナ・リセウ歌劇場との共同制作となる今回の《タンホイザ一》も、作品が深い内容を持つだけに、ロバート・カーセンがどのように演出するのか興味津々だ。手許にある資料では、主人公の芸術家が自らの芸術に対するインスピレーションを官能的な衝動から見出そうとしたために、社会から拒絶されることがドラマの核になるという。今の段階でお伝えできるのはここまで。詳しい情報を入手次第、誌面かホームページでお伝えしたい。
文:城閣勉(編集部)
(ぶらあぼ2006年10月号から)

★2007年3月15日(木)、18日(日)、21日(水・祝)・東京文化会館
問:東京のオペラの森実行委員会03-3296-0600
www.tokyo-opera-nomori.com/
他公演
3月24日(土)・よこすか芸術劇場