蔵(KURA)シック2017(4)居酒屋 夢酒みずき


 飲んでいて、食べていて、わくわくさせられる。「夢酒みずき」は、いつ行っても新たなおいしさを教えてくれる和食屋だ。
 店長の中川桂太さんをはじめ、SAKEソムリエの徳永尚子さんらスタッフが、料理長とともに考案するつまみは、素材が生きたシンプルな料理ばかりだが、それだけではなく、要所にひと捻りが加えられている。
 旬の「焼き筍」は、鰹節や昆布出汁に梅干しを入れて煮詰めた、自家製の煎り酒をかけながら焼いたり、朝に活け〆めされたばかりの「鯛一郎クンの生ちり」につけるのはただの醤油ではなく、レモン果汁と出汁を入れてとろみをつけたレモン醤油だったりと、他にはないちょっとしたアクセントや隠し味がちりばめられているのだ。
 さらに、こちらの魅力は、日本酒と料理のベストなマリアージュを体験できること。いましがた食べている料理に合う日本酒を聞けば、どうボールを投げても、すんなり返してくれる。約50種類のなかから、食べている料理や飲むタイミングに合わせて、スタッフが最適な銘柄を選んでくれるのがうれしい。
 例えば、「焼き筍」に合わせてくれたのは、「京ひな」。筍の青々とした風味と苦味が酒のやわらかい甘みを引き出し、煎り酒の酸味が全体を整えている。酒と料理が一緒になると、これほどまでに味わいが多角的になるのが驚きだった。
「せっかく合わせるのですから、お酒と料理が互いに活きてくるような相性を提案したい。そのほうが日本酒をおいしく飲めますし、もっと日本酒が楽しくなります」(徳永さん)
 口のなかが踊るとはこのこと。お酒がおいしい、と、料理がおいしいがちょうどよく重なって、豊かな充足感に包まれる。
取材・文:山内聖子(利き酒師・呑みますライター) Photo:M.Otsuka/Tokyo MDE
 

【日本酒】

京ひな 特別純米 深山(愛媛) 600円
さらりとしていながら、可愛らしいぽちゃっとした甘みもある。控えめな酸味が全体を引き締めている。軽快なのに味幅があるため、一杯目からの食中酒にぴったりで、特に野菜料理と相性がよい。

おすすめコンサートはこちら→

十四代 本丸 秘伝玉返し(山形) 800円
言わずと知れた、日本酒愛好家に絶大な人気を誇る一本。ハッと目が覚めるような洗練された華やかな香りが特徴。ドライな酸が艶のある甘みをぐっと引立てている。野菜から魚介類、珍味まで幅広い料理と合う。

おすすめコンサートはこちら→

隆 純米酒 無濾過生原酒 雄町(神奈川) 700円 
落ちついた米の旨味とほのぼのした甘みが味わいを形成している。無濾過生原酒とは思えないほど、やさしい口当たりだ。燗酒にすると味に厚みが増す。鶏肉や豚肉料理と合わせれば、さらに深みのある味わいに。

おすすめコンサートはこちら→

大七 純米吟醸 極上生酉元 常温熟成(福島) 800円
まるで肌触りのいい絹にふれたようなシルキーな舌触り、透明感のある緻密な味わいがする。燗にするとふくよかになり、艶やかさがさらに増してくる。上質な牛肉料理の後に口に含めば、上品に渾然となり、思わずため息が出てしまうはず。

おすすめコンサートはこちら→


【料理】

●鯛一郎クンの生ちり 2000円
愛媛から生きたまま直送される「鯛一郎クン」を、店でさばいてから提供。養殖とは思えないほど、きれいな甘みがある。特製のレモン醤油でさっぱりといただく。


●焼き筍 1500円

自家製の煎り酒をかけながら香ばしく焼いた。皿の底に沈んだ出汁ごと味わいたい。

●厚切りローストビーフとローストポーク盛り合わせ 5000円
見ただけで涎が出そうな逸品。希少な“かつべ牛”と福島のブランド豚“白河高原清流豚”を、じっくりと焼き上げた。口溶けのいい上質な脂の甘みがたまらない。

*銘柄、料理は季節によって内容が異なる。


【店舗データ】
居酒屋 夢酒みずき

東京都中央区銀座6-7-6ラベルビルB1
03-5537-1888
月〜金17時〜23時、土13時〜22時
日祝休

【プロフィール】
山内聖子(SSI認定利き酒師・呑みますライター)

1980年生まれ、岩手県盛岡市出身。“夜ごはんは米の酒”がモットーで、日本酒とは10年以上の付き合い。全国の酒蔵を巡りながら、dancyu、散歩の達人、Discover Japanなどの他、数々の週刊誌や書籍で日本酒について独自の切り口で執筆。他にも焼酎、ビール、あらゆる酒場、料理についても多数寄稿している。連載に「酒とツマミ究極の出会いを探して」(週刊大衆ヴィーナス)、「NEO・日本酒論〜飲み方の新提案から妄想までいいたい放題〜」(散歩の達人)、著書に『蔵を継ぐ』(双葉社)がある。