蔵(KURA)シック2017(3)神田新八 本店


 創業36年。日本初の全量純米蔵である日本酒「神亀」を看板にかかげ、純米酒の燗酒の普及に貢献してきたのが、「神田新八」である。燗酒が今よりもっと敬遠されていた時代に、草の根運動のように魅力を伝えつづけ、今では燗酒の聖地として、多くの日本酒ファンに愛されるまでになった。
 先代の父からバトンを受け取ったのは、二代目の佐久間丈陽さん。先代の頃より交流が深い、約20種類揃える「神亀」を筆頭に、「るみ子の酒」や「日置桜」など燗酒でおいしい純米酒だけではなく、「伯楽星」「綿屋」のように一杯目に冷酒で飲みたくなる純米酒もあり、扱う銘柄は80種類ほど。どれも造り手の顔が見える酒、というのが「神田新八」のモットーである。
 顔が見えるのは、日本酒だけではない。魚介類や肉に野菜など、料理に使う素材ひとつとっても、生産者の顔がわかるものばかりだ。
「お酒も食材も造った人の気持ちが伝わってくるようなものを、お客様にはおすすめしたいと思っています」
 さらに、ここ数年で力を入れているのが、料理と燗酒のペアリングだ。
 例えば、神亀酒造が半頭買いして酒蔵で熟成させた、短角牛のステーキに合わせたのは、少しだけ加水した「神亀」の燗酒。加水することによって酒はまろみを帯び、肉の上質な脂と溶けあえば、口のなかはうっとり充実した満足感に包まれる。
 食べている料理によって銘柄選びからはじまり、味わいの濃度によっては少しだけ割水をしたり、硬い酒はデキャンタをしたり、そして、細かく温度帯まで考慮してくれるのがうれしい。
「これからはお酒だけではなく、料理とともに楽しむ時代です。料理と合わせることによって、燗酒はますますおいしくなります。これからも、燗酒の魅力をもっと伝えていきたい」
取材・文:山内聖子(利き酒師・呑みますライター) Photo:M.Otuska/Tokyo MDE


【日本酒】

綿屋 特別純米(宮城)880円
たおやかな米の旨味が特徴。なめらかな口当たりで、よく味わっていると奥に秘めた甘みが顔を出す。たんたんと口のなかで広がる余韻もうつくしい。春野菜のおひたしや天ぷらなど、旬の野菜料理と特に相性がいい。

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伯楽星 純米吟醸(宮城)980円

キリリとしたタッチで非常に洗練された味わい。後口も軽快で、料理を邪魔せず飲み飽きしないタイプの酒だ。刺身から煮魚まで魚料理とよく合うが、チーズのような旨味が強いつまみにも寄り添う懐の深さがある。

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ひこ孫 小鳥のさえずり(埼玉)1280円
 
「神亀」の定番酒で、燗酒にすることでより魅力が際立つ酒。やさしい米の旨味と骨格のある酸味がほどよく共存している。上質な肉のステーキと合わせれば、脂が酒の熱で溶けて互いの旨味が口いっぱいに満ちる。

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諏訪泉 純米吟醸 満天星 熟成原酒(鳥取)980円

燗酒でおすすめしたい。熟成によって角が取れ、丸みのある口当たりに。どことなくミルキーな甘みがあり、ゆっくり口のなかで味わっていると複雑な奥ゆきが出てくる。余韻は長い。牡蠣の燻製など、珍味類のミネラル感と相性よし。

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【料理】】

菜の花のおひたし 880円(内容は季節によって異なります)
繊細な出汁でいただく一品。軽快な味わいの冷酒と合わせたくなる。

●チーズの吟醸粕味噌漬け 880円
「神亀」の吟醸粕と西京味噌を練り込んだものに、クリームチーズを入れて約3週間寝かせた。酒がこれでもかと進むつまみだ。


●短角牛のステーキ 5980円

「神亀」の酒蔵で熟成させた短角牛は、食べごろになってから店に直送される。脂はなめらかな甘みがあり、ほどよく噛みごたえがあるしっとりした肉質も秀逸。ぜひ燗酒と合わせたい。


●牡蠣の燻製 980円

厚岸産の大ぶりの牡蠣を、ほどよく燻製して塩をふって仕上げた。ふっくらした食感で牡蠣の旨味、磯の香りが酒を呼ぶ。


*銘柄、料理は季節によって内容が異なります。

【店舗データ】
神田新八 本店

東京都千代田区鍛冶町2-9-1
03-3254-9729
16時〜22時半(LO)
日祝休

【プロフィール】
山内聖子(SSI認定利き酒師・呑みますライター)

1980年生まれ、岩手県盛岡市出身。“夜ごはんは米の酒”がモットーで、日本酒とは10年以上の付き合い。全国の酒蔵を巡りながら、dancyu、散歩の達人、Discover Japanなどの他、数々の週刊誌や書籍で日本酒について独自の切り口で執筆。他にも焼酎、ビール、あらゆる酒場、料理についても多数寄稿している。連載に「酒とツマミ究極の出会いを探して」(週刊大衆ヴィーナス)、「NEO・日本酒論〜飲み方の新提案から妄想までいいたい放題〜」(散歩の達人)、著書に『蔵を継ぐ』(双葉社)がある。