東京・春・音楽祭 —東京のオペラの森2011—


 桜の季節は音楽もまた上野が相応しい。そんな思いを誘う「東京・春・音楽祭」が、2011年も上野公園周辺のホールや文化施設で開催される。約60公演のすべてがかくもハイクオリティで個性的な音楽祭は類がなく、話題性にもこと欠かない。
 目玉は東京文化会館(大ホール)の2演目。ワーグナー《ローエングリン》(演奏会形式)(4/8,4/10)は、アンドリス・ネルソンスの指揮が大注目だ。 32歳にしてバーミンガム市響の音楽監督を務める彼は、世界のトップ・オケ&歌劇場を軒並み制覇している驚異の気鋭。先のウィーン・フィル日本公演では、あの強者オケを鼓舞した生気溢れる演奏で喝采を浴びた。聖地バイロイト音楽祭に今年初登場して賞賛されたのがこの演目ゆえに、期待は膨らむ。
 題名役でバイロイトほか一流歌劇場を席巻しているロバート・ディーン・スミスに、「フラグスタートやニルソン以来」と賞される超新星ワーグナー歌手ハイディ・メルトンのエルザ、一流歌劇場でワーグナーの諸役を歌い続ける実力者リオバ・ブラウンのオルトルートなど、歌手陣も盤石。そして昨年の《パルジファル》で圧倒的実力を誇示したNHK交響楽団が腕を振るう。歌劇的な旋律美と楽劇的な陶酔感を併せ持つ魅力満載の音楽を、じっくりと味わえる演奏会形式のメリットは大きいし、長さを微塵も感じさせなかった昨年《パルジファル》の名演からも、足を運ばせるに充分だ。
 もうひとつは、マーラー・イヤーを飾る「大地の歌」(4/2)。こちらはおなじみ、リセウ大劇場の音楽監督等各地で活躍中のミヒャエル・ボーダーが指揮をとる。しかも独唱が、前記のスミスとブラウン。共にマーラー実績も豊富だし、管弦楽が鳴り響く同曲にワーグナー歌いの強靭な声は心強い。オケが今年同曲を経験済みの読売日本交響楽団なのも、生演奏の少ない名作を堪能させる重要な要素だ。
 まさに待望!なのは、東京文化会館(小ホール)における2人の実力派メゾソプラノの日本初かつ今回の来日で唯一のリサイタル。
 まずはアンゲリカ・キルヒシュラーガー(3/20)。超一流のオペラ歌手であると同時に、歌曲の分野ではいま頂点に立つメゾだ。深く豊潤な美声と類い稀な表現力に、ほのかな色気が加わった絶頂期の歌声を小ホールで聴けるのは、夢のような出来事。チケット争奪戦必至だろう。
 2人目はイザベル・レナード(3/21)。メトロポリタン・オペラの《フィガロの結婚》ケルビーノ等で人気を高め、パリ・オペラ座はじめ欧州にも進出している急上昇中のメゾ。歌曲や宗教曲ではシカゴ響等と共演するなど、清澄な歌唱は折り紙付きだし、こうした旬の歌手のリサイタルは日本では稀なだけに貴重な公演となる。
 このほか、東京文化会館(小ホール)では、熱視線が集まるピアニスト河村尚子のリストから、元NHKアナウンサーたちによる語りと音楽(4/2)やタンゴ(4/1)まで多彩な公演が行われ、上野学園の石橋メモリアルホールと旧東京音楽学校奏楽堂ではハイレベルの室内楽や合唱が、また各博物館や美術館では、名を見て驚くほどの公演が多数用意されている。どれもが一つの記事になるようなものばかり。何はさておき、春の開幕は上野で!   
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2010年12月号から)

★2011年3月8日(日)〜4月10日(日)
・東京文化会館(大ホール/小ホール)
・上野学園石橋メモリアルホール
・旧東京音楽学校奏楽堂
・国立科学博物館
・東京国立博物館
・国立西洋美術館
・上野の森美術館 他
問:東京・春・音楽祭実行委員会03-3296-0600
http://www.tokyo-harusai.com/