ボッティチェリ展、ミュージアム・コンサートへの誘い

 日伊国交樹立150周年を迎えた本年、東京都美術館ではイタリア・ルネサンス期を代表する画家サンドロ・ボッティチェリ(1444/45-1510)の大回顧展を4月3日まで開催している。ボッティチェリと言えば美術の教科書でもおなじみの『ヴィーナスの誕生』や『春』が有名だが、今回の展示作品も名画が目白押し。
(文:彌勒忠史/カウンターテナー)

聖母子(書物の聖母)	 サンドロ・ボッティチェリ © Milano, Museo Poldi Pezzoli, Foto Malcangi

聖母子(書物の聖母)
サンドロ・ボッティチェリ
© Milano, Museo Poldi Pezzoli, Foto Malcangi

 “書物の聖母”の名で知られる『聖母子』では、美しい濃紺のマントにあしらわれた聖母の象徴「海の星」とその光が金箔で表されており、自然とグレゴリオ聖歌「アヴェ・マリス・ステッラ(幸いなるかな海の星よ)」が脳内再生される。幼子イエスは金で描かれた荊の冠と3本の小さな釘を持物とし、聖母は我が子の受難を予知してか、どこか憂いを帯びた表情である。ああ、ここで描かれている光景は、タルクイニオ・メールラの「さあ お眠りなさい」とリンクするではないか。
美しきシモネッタの肖像 サンドロ・ボッティチェリ ©Marubeni Corporation

美しきシモネッタの肖像
サンドロ・ボッティチェリ
©Marubeni Corporation

 日本にただひとつ所蔵されるボッティチェリの作品『美しきシモネッタの肖像』は、当時のフィレンツェで一番の美女と言われたシモネッタ・ヴェスプッチとされている。艶やかな赤の衣装をふんわりとまとった金髪の美しい女性。前時代的な横向きの肖像画であるが、決して平面的にならないのが、この画家の面目躍如と言えようか。複雑に編まれた髪型、細かく刻まれた衣装のひだ、ドレープの表現が素晴らしい。これは『春』に登場する女神たちの衣装にも共通するが、ルネサンス貴族のたっぷりと布を使った優美な衣装や聖母のヴェールなど、それぞれの生地のテクスチャーが手に感じられるような生々しさである。
ラーマ家の東方三博士の礼拝 サンドロ・ボッティチェリ Gabinetto Fotografico del Polo Museale Regionale della Toscana Su concessione del MiBACT. Divieto di ulteriori riproduzioni o duplicazioni con qualsiasi mezzo

ラーマ家の東方三博士の礼拝
サンドロ・ボッティチェリ
Gabinetto Fotografico del Polo Museale Regionale della Toscana
Su concessione del MiBACT. Divieto di ulteriori riproduzioni o duplicazioni con qualsiasi mezzo

 初期の作品『ラーマ家の東方三博士の礼拝』には、フィレンツェの実質的な支配者であったメディチ家の人々やボッティチェリ本人の肖像が描きこまれている。まさにメディチ・リッカルディ宮殿の『東方三博士』を彷彿とさせるではないか。当時のフィレンツェではメディチ家の庇護のもと、こうして優れた芸術家たちがその才能を開花させたのだ。
 メディチ家が庇護していたのは画家たちだけではなく、もちろん音楽家たちもその恩恵に預かっていた。特にロレンツォ・イル・マニフィコ(1449-1492)の時代には、ハインリッヒ・イザークやジョスカン・デ・プレなどの音楽史に名を残す音楽家たちが活躍していたのだ。

 さて東京都美術館は「東京・春・音楽祭-東京のオペラの森-2016」の一環としてミュージアム・コンサートを行う。全3回の公演は全て上記ボッティチェリ展の記念コンサートだ。
 第1回(3/19)を担当するのはヴォーカル・アンサンブル カペラの面々。ギョーム・デュファイ「ばらの花が先ごろ」、ジョスカン・デ・プレ「ああ、いとも賢いおとめ」など、フランドルからイタリアの宮廷へやってきた音楽家たちのポリフォニーをたっぷりと聴かせてくれる。豊かな声の重なりと響きに酔いしれたい。
 第2回(3/27)はオランダを拠点に活躍するハーピストの長澤真澄が、ボッティチェリから霊感を得たコンサートを行う。プログラムには「サルタレッロ」、「白い花」、スーラジュ「コラール」、長澤真澄「流タイム」など、ルネサンスの舞曲から奏者本人のオリジナル曲までを揃えている。
 第3回(3/31)にはヴィオラ・ダ・ガンバの名手、平尾雅子が登場。ソプラノの名倉亜矢子、リュートの佐藤亜紀子、そしてヴィオラ・ダ・ガンバの頼田麗とのアンサンブルによるルネサンスの調べを堪能しよう。演奏曲目はバルトロメオ・トロンボンチーノ「戦いだ、戦いだ」、ヨアン・アンブジオ・ダルツァ「サルタレーロ」、ジョスカン・デ・プレ「千々の悲しみ」など。

【ボッティチェリ展】
2016年1月16日(土) 〜 4月3日(日) 東京都美術館 企画棟 企画展示室

●休室日
月曜日、3月22日(火)
※ただし、3月21日(月・休)、28日(月)は開室
●開室時間
9:30〜17:30 (入室は閉室の30分前まで)
●夜間開室
毎週金曜日は9:30〜20:00 (入室は閉室の30分前まで)
●観覧料
一般 1,600円 / 学生(大学生・専門学校生) 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
●特設WEBサイト http://botticelli.jp

【ミュージアム・コンサート「ボッティチェリ展」 記念コンサート 】
■vol.1 ヴォーカル・アンサンブル カペラ(声楽アンサンブル)
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3168.html
2016.3.19 [土] 14:00 東京都美術館 講堂
■出演
ヴォーカル・アンサンブル カペラ
 スペリウス:花井尚美、安邨尚美
 コントラテノール/テノール:望月裕央、渡辺研一郎、富本泰成、根岸一郎
 バッスス:櫻井元希、花井哲郎(音楽監督)
■曲目
ギョーム・デュファイ:ばらの花が先ごろ
ジョスカン・デ・プレ:ああ、いとも賢いおとめ/幸いな御母
ほか

■vol.2 長澤真澄(ハープ)
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3169.html
2016.3.27 [日] 14:00 東京都美術館 講堂

■出演
ハープ:長澤真澄
■曲目
V.ガリレイ:サルタレーロ
長澤真澄:流タイム
C.ネグリ:白い花
ほか

■vol.3平尾雅子(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3170.html
2016.3.31 [木] 14:00 東京都美術館 講堂

■出演
ヴィオラ・ダ・ガンバ:平尾雅子、頼田 麗
ソプラノ:名倉亜矢子
リュート:佐藤亜紀子
■曲目
ジョスカン・デ・プレ:千々の悲しみ
ヨアン・アンブロジオ・ダルツァ:サルタレッロ
バルトロメオ・トロンボンチーノ:戦いだ、戦いだ
ほか

料金:各公演、全席自由 ¥2,100(税込)