【インタビュー】小山裕幾 (フルート)

 フィンランド放送響首席奏者に就任したフルーティスト、小山裕幾。彼の現在(いま)を聴く「ミュージアム・コンサート」、そして、東京春祭 歌曲シリーズ vol.18「クリストフ・プレガルディエン(テノール)」での『冬の旅』(室内楽版)共演について聞いた。
(取材・文:寺西 肇 写真提供:小山裕幾 協力:ミリオンコンサート協会)

◆「ミュージアム・コンサート」

—— まずは、ソロ・リサイタルに関して、プログラミングの意図をお聞かせ下さい。また、聴衆には、特にどんな点を感じ取ってもらいたいでしょうか。

 率直にいいますと、今、自分がソロをやることに飢えているということです(笑)。ですから、色んなタイプの曲をプログラムに入れてみました。オーケストラでは、もっぱら組織の中の1人という役割ですので、多少自分を抑えなければなりません。それに対して、ソロのコンサートとなると、自由度が違います。
 今回演奏する曲は私が最近特に注目しているものです。バッハは私が特に大好きな作曲家で、自分でもピアノなどを弾いて、その音楽の素晴らしさにいつも浸っています。バッハが残したソロのパルティータに対して、二男のカール・フィリップ・エマヌエルのソロ・ソナタを置くことで、その対比を感じていただければと思っています。
 ゴーベールは、とてもふわっとしていて、演奏会の始まりとしても、とっつきやすい曲です。カゼッラ、ボルヌは言わずもがな技巧的で華やかなフルートの一面を、そして、シューベルトでは、音楽の温かみを感じていただきたいですね。

—— 共演するピアニストの斎藤龍さんは、どんな演奏家でしょうか。

 斎藤さんはチューリッヒで学ばれて、同じスイスで学んだ者として、共通の感覚がとても多くあります。表現の仕方を議論するときも、こちらの要求にいつも100%応えて下さって、非常に助かっています。また、年齢もそれほど離れていないので、斎藤さんとは素の自分をいつも出せて嬉しいです。以前、彼のリストの「巡礼の旅」を聴かせていただいたのですが、素晴らしい演奏で、今でも忘れられません。

◆プレガルディエンと室内楽版《冬の旅》で共演

—— さて、もうひとつ興味深いのは、木管五重奏+アコーディオンというユニークな編成を伴う『冬の旅』。「フルートとシューベルト」と言えば、「“しぼめる花”の主題による変奏曲」に集約されてしまいそうですが、ご自身にとって、シューベルトはどういった存在でしょうか。

 バッハに次いで、好きな作曲家です。フルートだけをとってみると「しぼめる花」しかありませんが、彼は素晴らしい曲をもっとたくさん書いています。歌曲はもちろんのこと、例えば4手のための幻想曲ヘ短調や後期のピアノソナタ、そして弦楽四重奏曲。「しぼめる花」は、どちらかと言えば、技巧的と叙情的の割合が7対4くらいですが、例えば今回のリサイタルで取り上げる、ヴァイオリンソナタを原曲とするソナタは、その割合が3対7といった感じでしょうか。私は特に、彼の叙情性に惹かれますね。

—— 『冬の旅』に関しては、フルーティストとしては聴き手であるしかなかった立場から、演奏する側になる訳ですが、作品の印象は変わりましたか。

 実は、バーゼルで勉強していた頃、クラスレッスンの時間に『冬の旅』をフルートで吹いたことがありまして、とても勉強になったのを覚えています。また、ソルフェージュの時間にシューベルトの歌曲を歌いました(笑)。この曲の素晴らしさを、このユニークな編成でどう表現できるのか。非常に楽しみにしています。

—— プレガルディエンさんには、どのような印象を抱いておられますか。その他の管楽器の皆さん方と、これまでに共演の機会は?

 実は、このお話をいただくまで、プレガルディエンさんを存じ上げなかったのですが、録音を拝聴しましたところ、すごく歌詞を大切にされる方だと思いました。またそれに基づく音楽表現がとても自然で、ご一緒出来る日が待ち遠しいです。まだ共演する管楽器の方々とはお会いしたことはないのですが、みなさん名手ばかりですので、いまからとてもワクワクしています。


◆フィンランド放送交響楽団での演奏生活


—— 先ほども、少しお話に出ましたが、ずっと「オーケストラの首席奏者になるのが夢」と語っておられて、一昨年、遂に念願かなってフィンランド放送交響楽団の首席に就任されました。楽員としての生活は、ご自身の音楽観に変化を及ぼしましたか。

 仕事上、オーケストラで演奏することが、ソロでやることよりも多くなりましたので、ソロの演奏する時のモチベーションが違います。またオーケストラで演奏することで、フルートのソロがないような曲や作曲家を知ることができて、毎日とても勉強になっています。今まで点と点に過ぎなかった曲同士の関係性を見出すことができて、面白いです。

ハンヌ・リントゥ指揮 フィンランド放送交響楽団日本公演より(2015年11月4日 サントリーホール)

ハンヌ・リントゥ指揮 フィンランド放送交響楽団日本公演より(2015年11月4日 サントリーホール)


—— 神戸国際フルートコンクールで優勝された時には、まだ慶應義塾大学の理工学部に在学中とのことで、たいへん驚かされました。理系出身というユニークなご経歴は、その後の音楽家人生にどう生きていますか。

 分析力でしょうか。そのお陰で、今の自分に何が必要かを考え、それをどういった練習で克服するか。そういったことを理論だてて考えることで、昨日の自分より今日、今日の自分より明日という、終わることがない邁進の道を歩むことができていると思います。
すみだトリフォニーホールの楽屋にて

すみだトリフォニーホールの楽屋にて


—— フルート界とそれを取り巻く現状をどう見ておられますか。

 フルートは、世界的に見て演奏人口は多いのですが、それに対して、プロとしての活躍の場がピアノ、ヴァイオリンといったその他の楽器に比べ、非常に少ないと思います。フィンランド放送交響楽団での演奏会のソリスト達は基本的にピアノ、歌、ヴァイオリンです。このギャップが今、われわれが抱えている問題だと思います。去りし日には、名プレイヤーがたくさんいました。二コレ、ランパル・・・例をあげれば枚挙に暇がありませんが、今後、こういう方たちのような奏者が再び現れれば、またフルート界も盛り上がると思います。かたや、フルート界のレヴェルは、日に日に上がってきていると思います。私も時々教えたりもするのですが、若い世代で優秀な方はたくさんいます。今から成長が楽しみです。

—— 一音楽家として、「目指す場所」とはどこでしょう。

 ソロの活動をもう少し充実させていくこと、そして今後の世代を育てられるような指導者になることが目標です。日々努力していきたいです。
村松楽器新宿店を訪れた際の一コマ

村松楽器新宿店を訪れた際の一コマ


◆ミュージアム・コンサート 小山裕幾 フルート・リサイタル

3月26日(土)14:00 国立科学博物館 日本館講堂

■出演
フルート:小山裕幾
ピアノ:斎藤 龍
■曲目
J.S.バッハ:無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV1013
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ 第4番 イ長調 D.574
カゼッラ:シシリエンヌとブリュレスク op.23
C.P.E.バッハ:無伴奏フルート・ソナタ イ短調
ゴーベール:フルート・ソナタ 第1番 イ長調p
ボルヌ:カルメン幻想曲
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3138.html

◆東京春祭 歌曲シリーズ vol.18 クリストフ・プレガルディエン(テノール)
4月2日(土)18:00東京文化会館(小)

■出演
テノール:クリストフ・プレガルディエン
フルート:小山裕幾
オーボエ・ダモーレ:金子亜未
クラリネット:西川智也
ファゴット:長 哲也
ホルン:日橋辰朗
アコーディオン:ジョセフ・ペトリック
■曲目
シューベルト(フォルジェ編):《冬の旅》 D.911(室内楽版)
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3023.html

東京・春・音楽祭
http://www.tokyo-harusai.com