大嶺光洋 ©Nomura Sakiko©Fukaya Yoshinobu宮崎芳弥Interview11/18(火)19:00 Hakuju Hall問 ビーフラット・ミュージックプロデュース 03-6908-8977https://www.bflat-mp.com河野智美 ギター・リサイタル Anniversary〜感謝を込めて〜11/22(土)14:00 王子ホール問 ムジカキアラ03-6431-8186 https://www.musicachiara.com69ひたむきに挑戦を続けて――節目の年、多彩な演目で示す現在地 取材・文:伊熊よし子文:長井進之介 様々な社会人経験を積みながら鍛錬を重ね、歌にひたむきな愛情を注ぎ続けてきたバリトンの大嶺光洋。深い響きのあたたかい声と言葉を大切に紡いでいく歌唱によって多くの日本歌曲を歌い、その普及に努めてきた。これまでにリリースされた3枚のCDは彼の芸術が結実したものであり、今回のリサイタルはそれらの集大成といえる内容だ。 山田耕筰の〈からたちの花〉で幕を開け、信時潔や橋本國彦、平井康三郎に木下牧子の作品など、いま聴くべき名曲が並ぶ。それらが描き出す美しい情景や バロックから現代作品まで幅広いレパ ートリーを誇るギタリストの 河野智美が、いま充実のときを迎えてい る。11月22日 に は 王 子 ホ ー ル で「Anniversary ~感 謝を込めて~」と題したリサイタルを開き、何度も演奏して熟成させてきた曲から新作委嘱作品までを披露する。 「アメリカのフレデリック・ハンドに委嘱した『ファンタジー』を演奏しますが、これは偉大なジャズギタリストでもある彼が、私の50歳を記念する今回のリサイタルに向けて献呈してくださった曲。テーマは“光と影”で透明感にあふれ、ジャズ的和声も含む希望に満ちた曲想です。バリオスの『大聖堂』を思わせます」 バリオスの「大聖堂」は、2013年に録音した『祈り』のアルバムにも収録されている。 「10代のころから愛奏し、常にプログラムに入れるほど。この曲を弾くとその日の自分の調子がわかる。速いパッセージは指ならしの意味もあり、コンサート全体に磨きがかかり、大好きです」 プログラムには他にもJ.S.バッハのリュート組曲 BWV997より、G.サンス「エスパニョレッタ」などが組まれている。 「リュート組曲は、長年演奏したいと願っていた作品。いまバロックギターに取り組んでいるのですが、やわらかい音が私の感性にとても合い、もっと人間の繊細な心の動きを存分に味わうことができるだろう。日本歌曲を知ることは、日本の文化そのものに触れるということにもつながる。グローバル化が進み、錯綜する情報に溺れてしまいがちな現代だからこそ、これらの作品を通して我が国が大切に育んできた文化と美に触れることが必要だ。大嶺の音楽を支え続けてきたピアノの宮崎芳弥の演奏、國分明子による朗読も演奏会をさらに充実の時間へと導いていく。探求していきたいと考えています。先日も音楽仲間の自宅で即興のアンサンブルをして、バロックの世界にますます魅了されました。スペインバロックのサンスなど、今後バロックギターで弾きたい曲もあふれています」 今回はソロに加え、恩師である福田進一との共演により、ラモー「ミューズたちとの対話」、ソル「幻想曲」でギターデュオが予定されている。 「福田先生のエネルギーと情熱についていく感じ(笑)。 先生の得意な作品でご一緒できるのは緊張しますが、楽しみが倍増します」 10月には荘村清志とイタリア、その後はソロでスペイン・バレンシアへと演奏旅行に出かける。イタリアでは、ハンスイェルク・シェレンベルガーが指揮する新イタリア合奏団との共演でコンチェルトも予定している。 「荘村さんもエネルギッシュで、常に新たな方向を目指している方。私はこの旅で多くを得ると期待していますので、その豊かな気持ちを抱えたままリサイタルに臨みたい」 彼女のもとには、スペインのギター製作の名匠マヌエル・アダリッドから「使ってください」といわれ、贈られた楽器があるという。 「大きな音量が出るギターですので、アンサンブルなどにも向いています。バレンシアには、里帰りとしてぜひもっていきたいと思っています」 河野智美のギターは各音を丁寧かつ繊細に、情感豊かに奏でるもので、作品の内奥に一途に没入する姿勢と作曲家への深い敬愛が印象的。 今回はその美質が存分に発揮され、私たちは至福の時間を享受できるに違いない。大嶺光洋バリトンリサイタル 〜たどり着いた日本歌曲の表現〜円熟の歌声が伝える和のこころ河野智美(ギター)
元のページ ../index.html#72