eぶらあぼ 2025.10月号
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→C 五十嵐健太(サクソフォン)□ □ □ □ □ □ □小堀勇介 ©T.Tairadate高関 健 ©上野隆文中江早希 ©Ayane Shindo相田麻純大沼 徹高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団第九特別演奏会 2025東京オペラシティ B日本とウクライナを祖国に持つ俊英の“祈り”12/28(日)15:00 東京文化会館問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp10/28(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 https://www.operacity.jp59文:林 昌英文:柴田克彦 「第九」の季節がやってくる。 各楽団が多くの公演を予定しているが、東京シティ・フィルは楽団主催公演としては、毎年1回しか「第九」演奏会を開催していない。 創立50周年を迎えた今年もその姿勢は変わらず、常任指揮者の高関健が指揮台に立ち、“一回入魂”の「第九」に懸ける。 とはいえ、このコンビの 年 間スケジュールを俯瞰すると、違う位置付けもみえてくる。今年度の高関と東京シティ・フィルは、記念年にふさわしい大曲を連続している。「春の祭典」、オペラ《ドン・カルロ》、「トゥーランガリラ交響曲」、 278回目を迎えた東京オペラシティの「B→C」は、経歴が注目される新鋭サクソフォン奏者、五十嵐健太の登場だ。日本人の父とウクライナ人の母を持つ彼は、11歳でウクライナの音楽学校、17歳でキーウ音楽院に進んだが、戦禍により日本へ避難。 東京音大に入学し、現在も同大学院で学ぶかたわら、日本管打楽器コンクールでは第1位等を受賞。今年5月には東京佼成ウインドオーケストラに入団した。 今回は、ソプラノとアルト、2本の楽器を用いる。 バッハのヴァイオリン協奏曲イ短調のソプラノでの演奏も楽しみだが、ウクライナに因んだ4作品がとりわけ目を引く。まずは委嘱作(世界初演)のヴィノグラドワ「マフカ」。 題名は「古代ウクライナ神話に登場する死んだ子どもの魂」を意味し、同国出身の作曲者はサクソフォンを「発展の可能性に満ちた若い楽器」と捉えているというから、いかなる作品なのか実年明けにはマーラーの「悲劇的」と「復活」。どれひとつ取っても“勝負曲”というべき規模と内容をもつ大作ばかりだ。「第九」がこのラインナップの真ん中にあると見なせば、意味合いも変わってはこないだろうか。少なくとも、ただの年末の風物詩に留まらず、音楽史を変えた記念碑的重要作という視点を、改めて思い出せる契機にはなりそうだ。 演奏面でも、毎回スコアをゼロから読み直し、分析を詳細に行う高関が、いに興味深い。また、ウクライナのサクソフォングループが委嘱したザンテの「日本の歌によるファンタジー」には〈浜辺の歌〉の一節、「ウクライナの人々へ想いを寄せつつ、彼の地に平和が戻ることを願って書いた」(作曲者)久留智之の「極東のドゥムカ」には、日本民謡やウクライナ音楽の要素が含まれているとの由。そして「ウクライナの人々が最も愛する曲の1つで、美しい旋律が心に響く」(五十嵐)スコリクの「メロディ」で、“祈り”というテーマを込めた本公演は締めくくられる。 このほかサン=サーンスの(クラリネット)ソナタ等々、内容は盛り沢山。ここは、五十嵐の心情を映す稀少なウクライナまどのようなベートーヴェン像を提示するのか。 緻密さと情熱にあふれる、清新な「第九」が実現するはず。ソリストはソプラノ中江早希、メゾソプラノ相田麻純、テノール小堀勇介、バリトン大沼徹。人気と実力を備え、本作の各パートのキャラクターにも合った4人がそろう。そして、今年大活躍の東京シティ・フィル・コーア(合唱指揮:藤丸崇浩)が、渾身の合唱で「第九」のメッセージを歌い上げる。関連作品と、世界の中でもハイレベルな日本サクソフォン界の俊才の力量を知る貴重な機会となる。高らかに歌い上げる記念イヤーの「歓喜の歌」

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