eぶらあぼ 2025.10月号
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第563回日経ミューズサロン チェコ少女合唱団《イトロ》ボヘミアから舞い降りる天使の歌声左より:チェコ少女合唱団《イトロ》/イジー・スコパル/マルティン・ドロッパ四手連弾の宇宙Ⅴ〜時空を超えて〜 寺田悦子 & 渡邉規久雄 デュオ・ピアノ11/21(金)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp10/21(火)18:30 日経ホール問 日経公演事務局03-5227-4227https://art.nikkei.com58取材・文:飯田有抄文:原 典子 プラハから100kmほど離れた古都、フラデツ・クラーロヴェーで1973年に創設されたチェコ少女合唱団《イトロ》が2年ぶり9回目の来日を果たす。4歳から19歳まで、年齢ごとに分けられた6つの予備課程で学ぶ約350名の子どもたちの中から、選ばれた30名のみがステージに立つことができるという。これまでに国際コンクールで36回もの優勝を飾り、アメリカでは「少年少女合唱の歌唱様式に決定的な革新をもたらした」と絶賛された。 「少女合唱団」という名前から、子どもらしさをイメージする方も多いかも 長年にわたり深い信頼関係で結ばれているピアニスト、寺田悦子と渡邉規久雄による「四手連弾の宇宙」第5弾が開催される。2020年のコロナ禍に始まったこのシリーズは、これまでベートーヴェン、シューベルト、ブラームスなどの傑作を取り上げ、毎回好評を博してきた。「2人で1つの響きを作る連弾は、ソロとも2台ピアノとも異なる魅力がある」と寺田は語る。寺田 「身体的な特徴の異なる2人の奏者が、統一感のある響きを作り上げていくのは簡単ではありません。 実は2台ピアノの方が、それぞれの自由度は高く、なおかつ音楽としてまとまりやすいのです。一方、連弾はより繊細に響き合わせていく必要があります。ただし、ソロのように聞こえてしまっては面白くありません。プリモとセコンドの独立性や個性を保ちながら、お互いに触発し合い、豊かな音色の広がりを生む——そこに連弾ならではの魅力があるのです」 コンサートは2人の上質な音色が掛け合わされるポリフォニーで幕を開ける。レーガーが連弾用に編曲したバッハの管弦楽組曲第1番「序曲」は、複雑なフーガが聴きどころだ。 続くプログラムのテーマは「時空を超えて」。ソロも交えながら、作曲家たちの異国へしれないが、実際は高度なトレーニングと音楽教育に裏打ちされた世界最高峰の女声コーラスというべきもの。ノン・ヴィブラートによる透明度の高い歌声が、あるがままの作品の姿をまっすぐに伝えてくる。ドヴォルザーク〈我が母の教え給いし歌〉、スメタナ「モルダウ」といったボヘミアの魂を感じさせる名曲から、ライヒ、ヴィヴァルディ、岡野貞一、菅野よう子まで、幅広いプログラムで「声の力」を存分にの憧れが綴られる。渡邉 「シューマンの曲集『子供の情景』は、彼の頭の中にあった遠い場所への憧れが表現されています。『見知らぬ国』や『不思議なお話』といったタイトルからもそれが窺えますね。そこから、連弾用に書かれた6曲からなる『東洋の絵』につなげていきます。アラビアの叙事散文集に触発されたシューマンが、“東洋らしさ”を当時どのように感じていたのかが伝わります」寺田 「後半のドビュッシー作品も、彼の異国情緒を反映しています。ソロは東洋美術に触発された『金色の魚』や、前奏曲の『西風の見たもの』を取り上げます。おそらくフランス人にとって、明るく春のイメージのある“東”と、大陸からの嵐をもたらす“西”では、違ったイメージを持っていたのではないでしょうか。続く連弾版の交響詩『海』は、ドビュッシー自身がオーケストラ譜と同時進行で書き進めたもので、管弦楽味わえることだろう(指揮:イジー・スコパル、ピアノ:マルティン・ドロッパ)。的な響きとピアノ音楽としての魅力の両方を感じていただきたいですね」 締めくくりは坂本龍一の「東風」である。寺田 「坂本さんは10代の頃ドビュッシーの音楽を聴いて音楽家になろうと思ったそうです。繊細な感性を持つ坂本さん自身の演奏を聴き、この曲を取り上げたいと思いました」 まさに「時空を超え」た東西の豊かな響きが四手を通じて交錯する、素敵な夜になりそうだ。2年ぶりの来日! 世界が認めた天上のハーモニーInterview寺田悦子(ピアノ) & 渡邉規久雄(ピアノ) 四手連弾でめぐる東西の響きの妙

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