寺神戸 亮 ©C.Villarroelニコラス・スコット小野寺修二 ©鈴木穣蔵上野通明 ©Seiji Okumiyaロベルタ・マメリ小林道夫49ヘンデル作曲 オペラ《ロデリンダ》(セミ・ステージ形式)11/28(金)17:00、11/30(日)14:00 北とぴあ さくらホール上野通明&小林道夫 デュオ・リサイタル 〜J.S.バッハから、シューベルト、ブラームス〜10/10(金)19:00 北とぴあ さくらホールネーモー・コンチェルタート「明日も俊太郎 〜オトナ×コドモ〜」 10/31(金)19:00 北とぴあ つつじホール 問 北区文化振興財団03-5390-1221 https://kitabunka.or.jp/himf/※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。北とぴあ国際音楽祭2025初演から300年―ヘンデル《ロデリンダ》に古楽の精鋭たちが集結 文:岸 純信(オペラ研究家)せたら怖いのだろう」と状況を見通す。しかも、国王は実は生きており―だから配役表に載っているわけで―「ああ、大団円に!」とも予想でき、最後まで無理なくドラマを味わえる。その優れた筋運びも、オペラ界が本作に注目する要因なのである。 さて、この《ロデリンダ》を、今回は北とぴあ国際音楽祭がセミ・ステージ形式で上演。まずは、古楽アンサンブル レ・ボレアードを率いる指揮者・寺神戸亮と演出家・小野寺修二の名コンビが嬉しく、日本でもお馴染みの主演者ロベルタ・マメリの鋭い歌いまわしと、グリモアルド役のテノール、ニコラス・スコットの清々しい響きも高い説得力を放つだろう。 加えて、国王役のクリント・ファン・デア・リンデとグリモアルドの顧問ながら国王を密かに援けるウヌルフォ役の中嶋俊晴というカウンターテナー 2人も注目の的に。リンデのもの悲しい声音は「高貴で忍耐強い男」に相応しく、中嶋の太い響きも「何が起きても怯まない」忠臣役にぴったり。事実、本作のハイライトの一つは、国王が誤ってウヌルフォを刺すシーン(第3幕)なので、両者の臨場感溢れるやりとりは、どうかお見逃しなく願いたい。 このほか、2025年北とぴあ国際音楽祭では、詩人・谷川俊太郎の世界観を歌、サクソフォン、チェンバロ、パーカッションで展開させる「ネーモー・コンチェルタート 明日も俊太郎 ~オトナ×コドモ~」や、バロック期ならではの「5弦チェロ」による「上野通明&小林道夫 デュオ・リサイタル」も開催。 近年、研究が大いに進んだ5弦チェロを、ジュネーヴ国際音楽コンクール・チェロ部門で日本初の優勝の上野が演奏。御年92歳の巨匠・小林道夫の伴奏で、J.S.バッハからシューベルト、ブラームスまで、知られざる楽器の妙なる音色に浸っていただこう! 《セルセ》の〈オンブラ・マイ・フ〉のように、大作曲家ヘンデルの人気オペラには、決定打のアリアがある。ところが、「ヘンデルの最高傑作!」とたびたび称される《ロデリンダ》(1725)には、その種の「知られた人気曲」が見当たらない。なのに、世界中で上演は続く。その魅力とはいったい何なのだろう? 実は、本作ではキャラクター 6名の「思考回路」がどれも非常に分かりやすく、音楽描写も巧みなので、「なぜそういう展開になる?」という疑問が湧かないのだ。一例として、主役の王妃ロデリンダと王位簒奪者グリモアルドの敵味方の関係性を紐解いてみよう。開幕冒頭で王妃は夫の戦死を嘆くが、そこに突然グリモアルドが現れ、「実は貴女を愛している。王が亡くなられた今、素直に打ち明けます」と口を開く。しかし、いきなりの求愛にロデリンダは驚き、「何を言う。あなたは私から夫を奪った男。しかも、我が義妹の婚約者ではないか」と反論。ところがグリモアルドは怯まず、「いまや愛のために自分は動く」と堂々と述べるので、王妃は激昂。短調のアリアで怒りを炸裂させるのだ。 実のところ、この二人の対話はたったの1分間。しかし、そのわずか1分で、客席は「誇り高いロデリンダ、敵役なのに案外正直なグリモアルド、小姑も怒ら
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