eぶらあぼ 2025.10月号
49/149

小川典子©Patrick Allen operaomnia.co.ukオッタビアーノ・クリストーフォリ©井村重人カーチュン・ウォン©Ayane Satoボーダン・ルーツ田村 響 ©武藤 章第774回 東京定期演奏会 10/17(金)19:00、10/18(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://japanphil.or.jp11/8(土)15:00 王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp46文:林 昌英文:近松博郎 日本フィルと首席指揮者カーチュン・ウォンが、ショスタコーヴィチ・プロに挑む。 作曲者没後50年の今年、選ばれたのはピアノ協奏曲第1番と交響曲第11番「1905年」。 完璧なタクトと緻密な彫琢で高水準の演奏を連続しているカーチュンと、持ち前のハートに演奏水準の向上も顕著な日本フィルとのコンビは絶好調の状態で、彼らの「11番」というだけでも大いに耳目を集める。 ただ、日本フィルのショスタコーヴィチといえば、高精度にして強靭、凄絶極まりない剛演を重ねた、現在桂冠指揮者兼芸術顧問のアレクサンドル・ラザレフが浮かぶ向きも多いだろう。特に彼らの「11番」は語り草となっている。筆者も客席であまりの壮絶さに頭の中が真っ白になったほどで、まさしく世界最高峰の超絶名演だった。 そして今回、あえて選ばれた「11番」。オケを妥協なく鍛えて最高の成果をあ 若い才能を紹介する貴重な企画として注目を集める王子ホールのtransitシリーズ。 第21回となる今回は2004年ウクライナ生まれのヴァイオリニスト、ボーダン・ルーツの初来日公演となる。 ボーダン・ル ーツの 名は2022年 のカール・ニールセン国際コンクール優勝によって広く知られることとなり、翌年18歳にしてロン=ティボー国際コンクール第1位の栄光を手にしたことにより世界的に脚光を浴びることとなった。その後はヨーロッパ各地でオーケストラとの共演や音楽祭出演に引っ張りだことなっている。 確かな技術に支えられた彼の演奏は、どのような難曲を前にしても自然に流れるようで、その風貌と同様に端正で知的な落ち着きを備えている。楽器の音色に対する感性も鋭敏で、その美しい響きが演奏の犠牲となることは一瞬たりともみられない。ヴァイオリン音楽の奥深さを静かに追求していげることにかけては、カーチュンもラザレフに劣らない。日本フィルに残るショスタコーヴィチ演奏のDNAを、どう磨き上げ、カーチュン流に再構築していくのか。いずれにせよ、新たな「11番」の歴史を刻む、特別な演奏になるのは間違いない。 前半の協奏曲も期待大。ピアノは経験豊富な名手、小川典子。彼女の巧みく彼のこうした特質は、今回のプログラムに収められているバッハやイザイの無伴奏作品において最大限に発揮されるのではなかろうか。 数々の指揮者の信頼を得てきた彼はアンサンブルにも優れ、余裕をもって共演者との対話を楽しむかのような一面を見せる。今回の共演は2007年な表現と技巧のきらめきと共に、本作のもう一人のソリスト、同楽団ソロ・トランペット奏者オッタビアーノ・クリストーフォリの爽快な“吹きっぷり”も楽しみ。役者がそろった本作の面白さは格別だ。 ショスタコーヴィチ没後50年を代表する公演となる予感。必聴というほかない。に弱冠20歳でロン=ティボー国際コンクールの覇者となり、今では日本を代表するピアニストの一人である田村響。同じコンクールで頂点を極めた二人が、グリーグやラヴェルのソナタ他で、世代を超えてどのような音楽を創り上げるかも本公演の大きな聴きどころとなる。カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団没後50年、新たに刻むショスタコーヴィチ演奏の歴史transit Vol.21 ボーダン・ルーツ(ヴァイオリン)ロン=ティボーを制したウクライナの俊英が初来日

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る