それでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのために第132回 「『新しいフェスの形』が海を越える」 この2ヵ月で3ヵ国(韓国、日本、中国/上海)の3つのフェスティバルに参加した。中でも韓国NDA(ニュー・ダンス・フォー・アジア)と北陸Regionダンスフェスティバル(HRDF)には以下の共通点がある。・国際ダンスフェスティバルである。・芸術監督が現役のダンサー・振付家である(ユ・ホシクと宝栄美希)。・新しいフェスティバルの形に挑戦している。・首都以外の地域の特性を活かしている(大邱と北陸)。・海外とのネットワークを広げている。・芸術監督がともに2歳児の親である。・オレが公式アドバイザーを務めている。 などなど。宝栄の愛娘は韓国滞在中に2歳の誕生日を迎えた。ちなみに飛行機代は2歳から有料になる。そのため「行きは1人分、帰りは2人分の飛行機代」がかかってしまったそうだ。 「新しいフェスティバルの形に挑戦」を見てみよう。NDAでは今回、コンテンポラリー・サーカスを大幅に取り入れ、劇場(スソン・アートピア)のロビーでも公演が行われた。ヨーロッパのアーティストも活躍し、イギリスとスペインを拠点とするトーマス・ヌーンの『アフター・パーティ』は、自身にそっくりな柔らかい素材の等身大の人形(上半身のみ)との不気味かつユーモラスな「デュエット」を見せた。パク・ヒュナ振付のDesignare Movement『オーバーラッピング・ポイント』は、バレエを基盤としつつ、多彩な動きの発想に満ちていた。さらに、この作品に出演していたソ・ジョンビン自身の振付によるユナイテッド・フィンガーズ『NUN』も、密度の濃い振付が特徴。カウントの間に積み込む動きの量と種類がハンパなかった。 さらに来年度に向けてホシクから発表があった。韓国の振付家と、今回出演した大森弥子(神楽坂130セッションハウス『ダンス花』とのエクスチェンジ)が共同でクリエイションを行い、来年公演するという新プロジェクトである。「フェスティバルは作品の売買の場ではなく、クリエイションの場である」という、現代にふさわしい新しいフェスの形への挑戦だ。 一方、北陸のHRDFもAiR(アーティストが滞在してリサーチやクリエイションを行う)を目的とした新しい形のフェスティバルである。今年は、昨年NDAから選出されたコ・イルドと、公募で選ばれたドイツのマリー・ハーネが北陸に滞在し、成果発表を行った。北陸は能登半島地震の影響を受け、復旧が遅々として進んでいないことは周知の通りである。しかし滞在するアーティストにとって、困難に立ち向かう北陸の人々に接することは強いインパクトを与えたようだ。オレもオンラインで参加した7月の成果発表トークでは、「普通はピクニックなどに使うブルーシートが、ここでは被災した家の屋根に使われている光景」に強い衝撃を受けたとハーネは語った。オレ自身も8月に、宝栄美希が主催する「みる・しる・つながる『コンテンポラリーダンス』」で金沢を訪れ、ダンスのレクチャーを行い現地のエネルギーを感じた。来年のHRDFには、今年のNDAから選出された韓国のアーティストと、公募による参加があるため、ぜひ挑戦してほしい。 さて今月は、NDA芸術監督のユ・ホシク自身のダンスカンパニー Designare Movementによる久々の新作『フォレスト』が、秋田(9月20日、21日)と東京(9月27日、28日)で公演される。こちらもお勧めである。Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹 底ガイドHYPER 』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。「ダンス私塾オンライン」開設。皆 様の 参加をお 待ちしております!乗越たかお
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