eぶらあぼ 2025.10月号
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120CD チャイコフスキー:四季/イム・ユンチャンCDCDSACDアクロス福岡開館30周年記念 アクロス・バースデーコンサート/安永徹&九響 他オリジン〜チェロ独奏のための邦人作品集/上野通明ブラームス:交響曲第3番/ジョナサン・ノット&東響デッカ・レーベルでの3枚目のアルバムは、超絶技巧で知られるピアニストにしては意外ともいえるチャイコフスキーの「四季」。しかし、一聴してその透明感のある静かな抒情に包まれるかのような演奏に引き込まれた。〈舟歌〉の孤独感あふれる悲しみで歌われる主題が、再現されたときには深々としたニュアンスを伴うなど、表現も細やか。各曲に添えられた詩とは別に、演奏家自身が一つひとつの作品に明確なイメージを与え(ライナーノーツにも記されている)、それを丁寧に音にしていく。これらの音楽がサロン風小品であることをやめ、人生の悲哀をしみじみと描く一大絵巻に。 (鈴木淳史)安永徹がコンサートマスターとして座った、指揮者なしの九州交響楽団は、モーツァルトの冒頭から、弦がしなやかに歌い、生き生きとした主題を提示する。ピアノ独奏の市野あゆみと仁田原祐は、息もぴったりで、豊かな表情で語り合う。その対話は溌溂として、実に楽しい。シューベルトの交響曲第3番では、18歳の作曲家の瑞々しい感性があちこちで輝いている。ウキウキするような精神の躍動があり、歌に溢れ、あてどなくさすらう。安永の統率により、作曲家の原点を感じさせる見事なシューベルト演奏となっている。ウォーロックの組曲は、古い舞曲を近代的に焼き直したもので、なかなか味わい深い。(横原千史)パラグアイ生まれで幼少期をスペインで過ごした上野が、音楽に日本人としてのルーツを探った一枚。古謡「さくら」から明治大正期の歌、戦後に活躍した作曲家たちの創作を経て現代日本のリアルタイムへという流れを無伴奏で描き出す。冒頭の「BUNRAKU」(黛敏郎)から楽器がびんびんと震え、並々ならぬ気迫が感じられる。「エア」(武満徹)は原作はフルート独奏だが、チェロで演奏することで新たな一面が浮かびあがった。2022年作の「フェニックス」(森円花)は上野の桁外れの身体能力を引き出した作品だが、一音に込められた強烈さには日本武術の精神を聴き取ることもできるかもしれない。(江藤光紀)これぞノット&東響のライブ感。ノットは古典的名曲ではオケに予想外の刺激を与え続け、“経験則で合わせる”ことを最大限排除してきた。この「3番」は殊に強烈で、1小節たりとも予定調和にならぬよう、テンポ、アーティキュレーション、奏法を変化させ続ける。それは特に両端楽章に顕著だが、東響はノットの即興性ある棒に食らいつき、緊張と活力が生み出される。低弦の下降跳躍音型の表情付けなどニュアンスも多彩。近年屈指のユニークなブラームスの後、正攻法のマーラー「花の章」の癒し効果たるや。両曲とも1880年代の作で、当時の大家と新進作曲家の対比も面白い。(林 昌英)イム・ユンチャン(ピアノ)安永徹(ヴァイオリン) 市野あゆみ 仁田原祐(以上ピアノ)九州交響楽団上野通明(チェロ)La Dolce Volta/ナクソス・ジャパンLDV140 ¥オープン価格ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団チャイコフスキー:四季ユニバーサル ミュージックUCCD-45038 ¥3300(税込)モーツァルト:2台のピアノのための協奏曲/ウォーロック:カプリオール組曲/シューベルト:交響曲第3番 他収録:2025年4月、福岡シンフォニーホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-8037 ¥3300(税込)黛敏郎:BUNRAKU /武満徹:エア/日本古謡 さくら(上野通明編)/松村禎三:祈祷歌/山田耕筰(上野編):からたちの花/滝廉太郎(上野編):荒城の月/森円花:フェニックスブラームス:交響曲第3番マーラー:花の章収録:2022年5月、東京オペラシティ コンサートホール 他(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00883 ¥3850(税込)

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