左より:毛利文香 ©Sihoo Kim/アブデル・ラーマン・エル=バシャ ©Chloe Kritharas左:笹沼 樹 右:上田晴子 ©Yutaka YamamotoInterview笹沼 樹(チェロ)& 上田晴子(ピアノ)紡ぎ合う親密な音の世界を感じる秋にぴったりの新譜自身の意志を映す入魂のステージ10/10(金)19:00 Hakuju Hall問 ノヴェレッテ050-6878-5760https://www.novellette-arts.comCD『夜と光の出会う ところ』コジマ録音ALM-7311 ¥3300(税込)76毛利文香(ヴァイオリン) デビュー10周年 リサイタル・シリーズ第2回 「巨匠と共演。多彩なるデュオ・リサイタル」取材・文:片桐卓也文:柴田克彦 俊才ヴァイオリニスト、毛利文香が全3回のデビュー10周年リサイタル・シリーズを行っている。桐朋学園や慶應義塾大学、さらにはドイツで学び、数々の国際コンクールで受賞後、幅広く活躍している毛利は、高レベルの技術と知・情を兼備した表現力を持ち、音楽の本質を衒いなく表出する真の名手。10月の第2回ではピアノのアブデル・ラーマン・エル=バシャとのデュオを披露する。今年6月の第1回では師ミハエラ・マルティンと濃密なヴァイオリン二重奏を展開し、来年3月の第3回ではイザイの無 新譜のタイトルにまず魅き込まれる。『 夜と光の出会うところ』というのがそれで、演奏者はパリ国立高等音楽院で教鞭をとるピアニスト 上田晴子と実力派若手チェリスト 笹沼樹のふたり。世代はちょっと離れているが、どちらも日本の音楽界にとって、今や欠かせない存在である。彼らの出会いから語ってもらった。上田「室内楽コンサートの初リハーサルで『もしかしたら相性いいのかも』とピンと来て、何となく気になって、少し話せたらいいなと思いながら帰り支度をしていたら、彼も待っていてくれて、駅までの5分の道で『試しに一緒に弾いてみようか』となりました」 2022年9月にHakuju Hallで開催された「DUOリサイタル」では、今回の録音とほぼ同じプロコフィエフやR.シュトラウスのチェロ・ソナタを含むプログラムを演奏した。そのリサイタルは継続しており、今年も第3回が7月9日に行われた。上田「まずプロコフィエフとR.シュトラウスを取り上げたのは、私が長年にわたって共演してきたジャン=ジャック・カントロフとの初めてのセッション録音が、このふたりの作曲家であったということに起因しています。 今回も新しく共同作業を始めるにあたって、私はここからスタートしたかったのです」伴奏ソナタ全曲を弾く予定なので、毎回形態が異なる。すなわちこれは、毛利の今を多角的に知ると同時に、同楽器の多面性を体感する好機となる。 今回は、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマンのソナタとシューベルトの「幻想曲」が並ぶ王道プロ。深い精神性と色艶を併せ持つ巨匠エル=バシャとのコラボで、独墺ソナタの変遷をたどる意味深い内容でもある。ここはぜひ、当シリーズを「長く続く音楽人生に向けた覚悟」と語る毛利の妙演に耳を傾けたい。笹沼「リサイタルの時にはブラームスの 歌 曲 のチェロ編曲版も入れていたのですが、歌う楽器としてのチェロの魅力を引き出しながら、ひとつの時代性も感じさせるような作品群を選びたかったので、今回のような選曲になりました」 そこにはグラズノフ「吟遊詩人の歌」やラフマニノフ「サロンの小品」といった 珍しい 作 品 も 並ぶ。この「サロンの小品」だが、もとはヴァイオリン用の楽曲であり、それをふたりで編曲したという。笹沼「『ロマンス』と『ハンガリー舞曲』という2つの小品で構成されています。ヴァイオリン用の作品をチェロで演奏するのはなかなか難しいわけですが、もう1曲収録されたラフマニノフの『ロマンス』(こちらは『リート』とも呼ばれる)とのつながりも意識しながら選曲しました」 いずれも録音の機会が少なく、たいへん貴重な記録だ。 そして中心となるR.シュトラウスとプロコフィエフのチェロ・ソナタは、まさにこのデュオでなければ作り出せない、考え抜かれた上でのフレッシュさと発見に満ちた演奏となっている。アルバム・タイトルの意味は、その演奏の中に隠されている。
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