左上:上野耕平©Yuji Ueno右上;山中惇史 ©Takafumi Ueno下:The Rev Saxophone Quartet ©Yuji Ueno左より:花崎淳生、田崎瑞博、川原千真、三輪真樹 ©藤本史昭Interview田崎瑞博(チェロ/古典四重奏団)没後50年、ショスタコーヴィチ全曲演奏が堂々たる完結へ上野耕平 サクソフォン・ワールドソロに四重奏、トップランナーのいまを聴く!10/18(土)15:00 せたがやイーグレットホール(世田谷区民会館)問 せたがや文化財団 音楽事業部03-5432-1535 https://www.setagayamusic-pd.com古典四重奏団 ムズカシイはおもしろい!! ショスタコーヴィチの時代 2025その5の夜 9/25(木)19:00 その5の昼 9/30(火)14:00その6の夜 10/28(火)19:00 その6の昼 10/31(金)14:00ルーテル市ヶ谷ホール問 ビーフラット・ミュージックプロデュース03-6908-8977 https://www.bflat-mp.com69文:宮本 明取材・文:林 昌英 デビュー10周年の上野耕平が、信頼するピアノの山中惇史とともに、さらにサクソフォン四 重 奏 のThe Rev Saxophone Quartetも引き連れての豪華コンサート。10周年といっても正式デビュー前からすでに活動歴があるので、本人曰く「やんわり10周年」。最大の聴きものは、Revによるサクソフォン18本の「動物の謝肉祭」だ。4人がそれぞれSATBを持ち替えたうえに、ソプラニーノとバスも使用する。18本! しかも同族6種類がステージ上にずらり勢揃いする景色にはなかなかお目にかかれまい。たとえば〈象〉はバリト 古典四重奏団のレクチャー付きシリーズ「ムズカシイはおもしろい!!」は、3年間ショスタコーヴィチに集中し、没後50年の今年、最後の4曲で全15曲を弾き終える。チェロの田崎瑞博は「今年が楽しみで仕方がなかったです」と笑顔をみせる。 「全曲演奏を以前一度やっているので、先のことを知った状態で最初から辿り直すのは面白かったです。 ここがあの箇所に繋がるんだ!と発見がある。後期作品は書法的には簡潔で、必然性にあふれています。ショスタコーヴィチは年を追うごとに高度な書法になり、猛烈なスピードで自分を引き上げていった。それを追いかけるのは大変だけど楽しい。 モーツァルトと同じ感覚です」 第12番以降は12音を音列的に並べた旋律(「十二音技法」とは全く別のもの)を多用するなど、新しい表現法を編み出した一方で、少ない音のシンプルな書法で透徹した世界を作る、後期の作品群。 「12音のメロディは無調的だけど主音に向かう力を感じさせるもので、十二音技法のパロディとして入れ込んだのでしょう。重要なのはむしろ“単純さ”です。ただの音階や誰でも作れそうなメロディを堂々と使って展開させる潔さ、でもン3+バスという低音四重奏。 そんなこと誰もやってない。「ラプソディ・イン・ブルー」も聴き逃せない。そこに山中惇史がいるのに、あえてピアノなしのサクソフォン四重奏なのだ。鉄道を愛する上野にとっては会場のせたがやイーグレットホールが世田谷線沿線というのもプラスポイント。 「小さな車輪の可愛らしい世田谷線でトコトコ来て、より豊かな時間を過ごしてください!」(上野)誰にも真似のできない構築力。度肝を抜かれます。第15番の冒頭も単純な旋律(臨時記号もない!)をフガートにしただけで特別な世界観を作れる。恐ろしいほどです。 その力は50代にはまだなくて、晩年にそれを獲得したわけです」 20世 紀という時 代、ソヴィエトという国を生き抜いたショスタコーヴィチだが、「あくまで自分の芸術に関心が強かった」と田崎はみる。 「谷川俊太郎の言葉に『人間はやっぱり争う、勝負ごとが好き、戦争は未来になっても終わらない』というものがあります。 結局変わらないどころか、文明が進むほどひどくなる。彼に限らず、20世紀はそれまでの価値観、死生観が変わり、苦しんだのだと思います。ただ、それをテーマにするのではなく、あくまで絶対音楽で極めようとしたのがショスタコーヴィチ。もちろん現代ならではの時代性や社会性は反映されるし、自然に織り込まれる心情はあるけど、それだけを狙うことはなかったのです」 昨年のインタビューでの「彼と同時代を生きた者として、ショスタコーヴィチはできるだけ演奏しないといけない。ソ連が存在した当時の社会でわずかでも繋がっていた一人であることは、どこかに音として出る」という田崎の言葉には、この作曲家に取り組む意義が集約されている。記念年の秋、古典四重奏団の演奏で、後期作品の底知れぬ深みに入り込む。
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