eぶらあぼ 2025.9月号
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トーマス・ダウスゴー ©Thomas Grøndahl北川理恵ダニエル・オッテンザマー ©Andrej Grilc久米俊輔 森下 唯 ©KEIKOHIRANO中村 蓉 ©金子愛帆生田みゆき根本卓也トーマス・ダウスゴー(指揮) 大阪フィルハーモニー交響楽団ダニエル・オッテンザマーの妙技、ここに極まる!Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム『彼女のアリア』(新制作)バッハの名旋律にのせて演劇とダンスで描き出す青春の物語第591回 定期演奏会9/26(金)19:00、9/27(土)15:00 大阪/フェスティバルホール問 大阪フィル・チケットセンター06-6656-4890 https://www.osaka-phil.com10/24(金)19:00、10/25(土)14:00 東京文化会館(小)問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 https://www.t-bunka.jp67文:石合 力文:乗越たかお 2024/25シーズンから大阪フィルのアーティスト・イン・レジデンスを務めるウィーン・フィルの首席クラリネット奏者ダニエル・オッテンザマーが9月26、27日、大阪・フェスティバルホールで開かれる定期演奏会に登場する。 デンマークの作曲家ニールセンのクラリネット協奏曲を演奏する。 オッテンザマーは、22年に大阪フィルとの初共演でコープランドの協奏曲を演奏。聴衆、団員に圧倒的な印象を与え、同楽団が新たにポジションを作って迎えた。 昨年、ウェーバーの協奏曲第2番を共演したほか、今年7月の特別演奏会では、モーツァルトの協奏交響曲のヴィオラ、ベートーヴェンの三重協奏曲のヴァイオリンの各独奏パートをクラリネットで演奏した。クラリネット独奏での2曲の演奏は、ウィーンでも経験のない試みだったが、見事成功させた。 ニールセンの協奏曲は、演奏機会の 一流アーティストを起用したオリジナルの舞台芸術作品で、青少年に向けた「劇場デビューの機会の創出」を発信する。それが東京文化会館の「シアター・デビュー・プログラム」である。今回は青春小説で有名な森絵都『彼女のアリア』が舞台化されることになった。 本作はJ.S.バッハの作品(作編曲:根本卓也)をちりばめ、特に「ゴルトベルク変奏曲」が象徴的に用いられる。ピアノを弾く少女・藤谷(北川理恵)と、彼女に惹かれる「ぼく」(久米俊輔)という二人の中学3年生の物語だ。同曲には「不眠症に悩む伯爵のために作られた説」があるが、本作でも不眠症は重要なカギとな少ない難曲として知られる。オッテン ザ マ ー は、6月に行 わ れ た 記 者懇談会で、ウィーン・フィルとも録音しているこの作品について「とても美しいものと叫ぶような不快な音、メカニックかと思えば粗雑に、など極端なものを表現しないといけない」と語った。関係を深める大阪フィルについて、「アーティスト・イン・レジデンスとしての信頼関係があるからこそ、オーケストラにとって慣れないレパートリーにチャレンジする値打ちがある」とも。共る。思春期の不安定な心や複雑な感情の機微が共感を呼ぶ作品である。 演出の生田みゆきは、出演者同士の関係性から生まれる自然で繊細な演出が特徴である。じつは東京藝術大学大学院音楽研究科出身で、曲への理解も深い。ピアノの森下唯も同大学院出身で高い技術を誇る一方、アニメ曲のアルバムを出すなど若々しい感性を持っている。 特筆すべきは、振付・ダンスの中村蓉である。自ら演劇的なコンテンポラ演相手として不足なしとの意味だろう。 指揮は、定期初登場となるデンマーク出身のトーマス・ダウスゴー。 ニールセンのスペシャリストとして知られ、序曲「ヘリオス」、交響曲第4番「不滅」も取り上げる。リー作品を手がけ、オペラ演出も多数担当する彼女の振付は、シリアスな感情の重みとポップなユーモアのバランスが絶妙である。 若者の揺れ動く内面を情感豊かに描き出すだろう。ダンサーは中村のほか、野口卓磨、長谷川暢が出演する。 文学、音楽、演劇、ダンスが織りなす本作は、中高生のみならず、大人にとっても青春時代を振り返り、純粋な気持ちを呼び覚ますに違いない。誰しもの心に深く響く舞台となるだろう。

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