第562回日経ミューズサロン アンドレイ・ググニン 華麗なるピアニズム躍動するチャイコフスキー、そしてロ短調ソナタの頂へ©Yuji Hori音に託した作曲家の「心の声」を読み解く渡辺玲子 プロデュース レクチャーコンサート vol.10(最終回)知る、聴く、喜び 〜時代を彩る名曲とともに〜 心の声を求めて バルトーク、ラヴェル、そしてスーク9/25(木)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 https://hakujuhall.jp9/4(木)18:30 日経ホール問 日経公演事務局03-5227-4227https://art.nikkei.com 最終回には、バルトークやラヴェルのソナタなどが並ぶ。19世紀の民族主義的音楽の流れを受けて、20世紀の作曲家たちが音楽にどのように「心の声」を託したのか。そこに渡辺玲子自身の心の声が静かに重ねられ、演奏されるとき、聴き手の心の声も共鳴するにちがいない。ピアノは、ジュリアード留学時代からの信頼すべき相棒・江口玲。50渡辺玲子(ヴァイオリン)取材・文:宮本 明文:飯田有抄 モスクワ生まれのアンドレイ・ググニンは、ウィーン楽友協会やカーネギー・ホール、シドニー・オペラハウスなど各国の一流ホールでのコンサートを重ねるピアニスト。ロシアがウクライナに侵攻した後に祖国を離れ、現在はアムステルダムを拠点に演奏活動を行っている。2023年の来日時には、ウクライナのヴァイオリニスト、A.セメネンコとデュオ・リサイタルを開催し、積極的にウクライナを支援する取り組みがNHKのニュースでも紹介された。 そんなググニンが今回のリサイタル 渡辺玲子が2015年から続けてきたHakuju Hallでのレクチャーコンサートが最終回(第10回)を迎える。今回のテーマ「心の声を求めて」は、彼女がつねに最も伝えたいと考えてきたことであり、演奏家としての彼女自身が作品と向き合うときの変わらぬ姿勢でもあるという。 「音楽は、それ自体が人間の心理をそのまま表しています。たとえば古典派の時代には、それを最も効率的にクリエイティブに表現する形式のひとつがソナタ形式でした。テーマで始まり、そこに何かドラマが生まれ、嵐が起こり、また元に戻る。そのように、旋律や和声の作る緊張とリリースの構造が、心理的なドラマを表現しているのです。 そのドラマをどのように捉えるかが大事。それをセンシティブに捉えることができれば、作曲家の意図を汲み取る助けにもなります」 それはもちろん演奏する側にとっても不可欠な視点。 彼女は生徒たちへのレッスンでも、単なる技術指導ではなく、音楽に向き合う姿勢そのものを問うという。 「彼らは上手に弾けるのですが、譜面に書かれた音をそのまま弾いてしまうことが多いんですね。そうじゃなくて、ドラマとして捉えて弾きなさい。この音はどんな心理を表しているの? それで取り上げるのは、ウクライナにルーツを持つチャイコフスキーの名曲、バレエ音楽「眠れる森の美女」と「くるみ割り人形」のピアノ版(プレトニョフ編)だ。この華麗で立体的な舞踏音楽を、ググニンの推進力にあふれ、多彩な音色で聴ける機会は特別な時間になるだろう。 後半は豊かな物語性を感じさせるリストのソナタ。ロシア・ピアニズムを継承するググニンの深いタッチと抒情的な解釈が描く大曲に注目したい。を考えなければ、生き生きとした音楽にはなりません」 演奏家が音楽とどのように向き合っているのか。このシリーズでは、そのプロセスの一端を私たち聴き手とも共有してきたのだ。 「私自身、演奏のときには同じプロセスを辿ります。 分析自体は理性的な作業ですが、自分の中で消化して音に変換する段階では感覚的なものも入ってくるので、それを言葉で伝えるのは簡単ではありません。でも本に書いてあるようなことばかりでなく、演奏家が作品を分析する過程で感じていることや、本能的に捉えたものも含めて伝えたいと思ってきました」 それを知ることで、私たちも、音楽に刻まれた心のドラマを捉える手がかりをもらえる。 「もちろん、もっとアバウトに聴いてもいいと思います。 でも少し聴き方を変えると、より面白い発見があるかもしれないよ、という提案でもあるのです。 作曲家の生涯や時代背景も重要です。レクチャーはそこもカバーしています」Interview
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