左より:木ノ脇道元 ©Higashi Akitoshi/パブロ・ガリベイ ©Miguel Ángel Padrón/黒田鈴尊 ©Tomoko Hidaki©Chloe Kritharasアンサンブル・ノマド 第85回 定期演奏会 「まなざし、あるいは差異の煌めき」vol.2:今へのまなざし5人の作曲家それぞれの視座にフォーカスアブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)「ゴルトベルク」に人生の指標を見出してアブデル・ラーマン・エル=バシャ ピアノ・リサイタル10/15(水)19:00 浜離宮朝日ホール問 朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/47取材・文:飯田有抄文:伊藤制子 アンサンブル・ノマドの第85回定期は「まなざし、あるいは差異の煌めき vol.2:今へのまなざし」と題されたスリリングなプログラムである。4人の邦人作曲家は世代も作風もまったく異なる。 バロック・アンサンブルのための藤倉大「グリーンティー・コンチェルト」は作曲者の幼少の記憶が詰まった一曲。木ノ脇道元がモダンフルートでソロを務める。気鋭・久保哲朗の「バベル」は日本音楽コンクール1位に輝いた作品で冒頭から特異な音響に耳を奪われる。ピアニストでもあり欧州留学中の久保田草太による「イントネーション」は、今回 明晰な解釈と端正な表現で聴衆を惹きつけるアブデル・ラーマン・エル=バシャ。10月のリサイタルはJ.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」をメインとし、モーツァルトとベートーヴェンのソナタを組み合わせる。エル=バシャは2024年4月に日本の稲城市で、満を持して「ゴルトベルク変奏曲」を収録しCDをリリースしたが、意外にもこの作品に取り組むことを長年ためらっていたという。 「私の音楽的基盤を作ってくれたのは、間違いなくバッハの作品です。多声音楽の解釈とその表現技術など多くを学びました。 若い頃にはショパンやリストやプロコフィエフらの華やかな作品に惹かれた時期がありますが、そうした要素はバッハの鍵盤作品にはありません。上質で高度なポリフォニーによる、見えない難しさがあるのみです。その特有の難しさから、私は長年『ゴルトベルク変奏曲』に取り組むことをためらってきたのです。しかし音楽を追求し続けるなら、避けることのできない作品だと思うようになりました。 バッハ晩年の所産であるこの作品に、私は逆説的な2つの性質——喜びと悲しみを見出しています。喜びとは人生への愛、人々への愛です。 そして悲しみとは人間の限界、不完全さです。 それが見事なバランスで共存し、が世界初演だ。クラリネットとギターのための三瀬和朗「夜想曲」はリリカルで精緻な曲。ベテランらしい気概が感じられる。1963年生まれのエベルト・バスケスはアンサンブル・ノマドでしばしば取り上げられてきたメキシコの作曲家だが、彼への委嘱新作「空(くう)に鳴る」の世界初演も楽しみだ。ノマドのメンバーにギターのパブロ・ガリベイ、尺八の黒田鈴尊らも加わり、華やいだ一夜となろう。9/26(金)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 キーノート0422-44-1165 https://www.ensemble-nomad.com均整の取れた美しさがあるのです。よりよき人生の指標となるような性質が、この作品にあると信じています」 リサイタルの前半に「ゴルトベルク変奏曲」をリピート(繰り返し)なしで全曲を演奏する。後半はモーツァルトのソナタ第14番とベートーヴェンのソナタ第21番「ワルトシュタイン」だ。 「調性を意識して選曲しました。バッハはト長調。 モーツァルトはハ短調、そしてベートーヴェンはハ長調です。この並びによって私が示したかったのは、明と暗のコントラストです。モーツァルトの 第14番 のソナタには暗さがあり、第1楽章にはベートーヴェンのソナタ第5番、第2楽章の 中間部にはベートーヴェンの『悲愴』ソナタの第2楽章へのつながりを思わせます。また、ポリフォニックな書法で作られている部分もあり、バッハとのつながりも感じられるでしょう。対して、ベートーヴェンのソナタは『 悲愴 』や『 熱情』のようなダークでドラマティックなものではなく、あえて明るいソナタ『ワルトシュタイン』を選びました。忘れてはならないのは、彼らのような天才たちは時代を超越する音楽を創造してきたということです。この三人の偉大な音楽家たちの作品に、つながりや個性を存分に感じながら聴いていただけると思います」Interview
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