eぶらあぼ 2025.9月号
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ライアン・バンクロフト ©B.Ealovegaイェルク・ヴィトマン ©Marco Borggreveトマス・ハンプソン ©Jimmy Donelan永野英樹 ©J.RADEL青木尚佳 ©井村重人笹沼 樹 ©Taira Tairadateライアン・バンクロフト(指揮) NHK交響楽団上昇気流に乗る新鋭指揮者とレジェンド歌手の邂逅イェルク・ヴィトマン(クラリネット) mit 青木尚佳(ヴァイオリン) & 笹沼 樹(チェロ) & 永野英樹(ピアノ)精鋭たちと描く20世紀音楽の深層第2044回 定期公演 Cプログラム9/26(金)19:00、9/27(土)14:00 NHKホール問 N響ガイド0570-02-9502 https://www.nhkso.or.jp11/15(土)13:00 TOPPANホール問 TOPPANホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.com46文:山田治生文:鈴木淳史 世界的に活躍する若手指揮者の起用に積極的なNHK交響楽団の定期公演に、5月のギエドレ・シュレキーテ、6月のタルモ・ペルトコスキに続いて、9月、アメリカ出身のライアン・バンクロフトが登場する。 バンクロフトは、1989年、カリフォルニア生まれ。 カリフォルニア芸術大学でトランペットを専攻した後、スコットランド王 立 音 楽 院 で 指 揮を学 ぶ。2018年のニコライ・マルコ国際指揮者コンクールで優勝し、現在はロイヤル・ストックホルム・フィルとBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団の首席指揮者を兼務している。 今回、N響では、シベリウスの交響詩「4つの伝説」を取り上げる。 有名な〈トゥオネラの白鳥〉のほか、〈レンミンカイネンと島の乙女たち〉、〈トゥオネラのレンミンカイネン〉、〈レンミンカイネンの帰郷〉の計4曲は、「レンミンカイネン組曲」とも呼ばれ、民族色の感じら それぞれの強い個性がぶつかり合い、それが一つとなって大きな高揚感をもたらす。押しも押されもせぬクラリネットのヴィルトゥオーゾ、イェルク・ヴィトマンが、日本の誇る名手たちと繰り広げるTOPPANホールでの室内楽公演には、そんな瞬間が続けざまに訪れるはずだ。 演奏会は、ヴィトマン作曲による、クラリネットとヴァイオリン、ピアノのための「ミューズの涙」でスタートする。演奏に加わるのは、アンサンブル・アンテルコンタンポランのピアニストで現代曲の世界的なエキスパート、永野英樹。 そして、ミュンヘン・フィルのコンマスを務める若き名手、青木尚佳。作曲家としても世界中から引く手あまたのヴィトマンが20代で書いた作品を鮮やかに奏でてくれよう。 ベルクの「4つの小品」では、ヴィトマンのクラリネットと永野のピアノが緊迫感のあるアンサンブルから、研ぎ澄れるシベリウス初期の作品を、若きマエストロが多彩に描くことだろう。また、晩年のバーンスタインに才能を認められ、巨匠とマーラーの「さすらう若人の歌」や「リュッケルトの詩による5つの歌曲」などの録音を残すレジェンド、トマス・ハンプソンが久々にN響定期まされた音楽を紡ぎ出す。ラヴェルの「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」では、カルテット・アマービレのメンバーで力強さと繊細さを備えたチェリスト、笹沼樹が登場。青木との濃厚なデュオに期待したい。 そして、出演者総出となるメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」。 第に登場し、十八番といえるマーラーの歌曲を歌う。今回は歌曲集「こどもの不思議な角笛」から5曲。 交響曲第2番「復活」の第4楽章に転用された〈原光〉や交響曲第4番の第4楽章となった〈天上の生活〉を名バリトンがどう聴かせてくれるのか、興味津々である。二次世界大戦下の捕虜収容所で書かれたという、絶望的な状況に宿る希望と信仰の音楽がホールを満たす。この作品はソロやデュオの形態による楽章も多い。とりわけクラリネット独奏による第3楽章、ヴィトマンが得意な弱音も生かした繊細な表現には誰もが耳を奪われるはずだ。

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