6月にパリのシャンゼリゼ劇場でデビュー 25周年を仲間たちと祝ったカウンターテナーのフィリップ・ジャルスキー。歌って指揮して、ヴァイオリンもピアノも弾き、3時間超えの大盛況なコンサートだったそうだ。 年下の優秀なカウンターテナーが次々登場するなかでも、その人気ぶりは健在だ。 そのジャルスキーの歌声を10月にすみだトリフォニーホールで聴くことができる。今回は、フランス・ギター界のスター、ティボー・ガルシアとのデュオ・リサイタルだ。ジャルスキーの来日は6度目。2008年の初来日はジェローム・デュクロ(ピアノ)とのリサイタルだったが、10年以上デュオでの公演はなかったので、きわめて貴重な機会といえよう。 ジャルスキーがガルシアと初めて共演したのは6年前のこと。コンピレーション・アルバム『パッション・ジャルスキー』のためにダウランドの〈流れよ、わが涙〉とシャンソンの〈枯葉〉の2曲を録り下ろしたのが始まりで、二人はすぐに意気投合、デュオ・アルバム『ギターに寄す』が生まれた。これまでヨーロッパを中心に30回以上の公演を重ねてきたプログラムが、ようやく日本で実現する。 「初めて合わせたときからティボーの演奏に深く惹かれました。彼はギターでなんでも自在に演奏することができますが、私がすばらしいと思うのは、彼の演奏を聴くとき、楽器を意識することなくただ音楽として聴けることです。それは、私自身もつねに目指していることなのです。カウンターテナーとしては、声についてあれこれ言われますが、重要なのは私の声域とかテクニックではなく、音楽そのもの。最近、リートを多く歌っているのもそういった理由からです」 リサイタルのプログラムは、ダウランドやパーセルなどイギリスの歌から、モーツァルトやシューベルトのリート、ロッシーニのアリア、フォーレの歌曲、ギターの魅力が映えるラテン・アメリカの歌、そしてバルバラのシャンソンまで、まさに「国や時代を超えた音楽の旅」だ。筆者も2021年にロンドンのウィグモア・ホールで同プログラムを聴いたが、ジャルスキーの甘美な声とガルシア ©Simon FowlerInterviewフィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー) フランスのスター・ギタリストとの来日公演が実現!44フィリップ・ジャルスキー&ティボー・ガルシア デュオ・リサイタル10/7(火)19:00 すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 https://www.triphony.com他公演 10/9(木) 王子ホール(完売) 10/13(月・祝) 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール(0570-064-939)取材・文:後藤菜穂子の細やかなギターがひとつの響きのように溶け合い、聴衆をうっとりさせた。 実際、「ティボーと一緒に歌っていると、まさに私たちが舞台でひとりの人間になったように感じる魔法の瞬間があるのです。それが彼とのデュオの醍醐味だと言えます」とジャルスキーは語る。 「このプログラムは二人で何年も共演を重ねてきたので、日本のみなさんにはその成果を聴いていただけると思います。もちろん演奏は毎回異なりますが、彼は私の声、フレージングや息遣い、私が感じていることを知り尽くしているので、かけがえのない舞台を一緒に創り上げたいと願っています。ティボーの卓越したソロもお楽しみいただけます」 最近は音楽活動を多角化し、指揮者として、また教育者としての活動に重きを置きつつある。4月にはモンペリエでモーツァルトの《ポントの王ミトリダーテ》を指揮、初のモーツァルト・オペラに手応えを感じたという。 日本を愛するジャルスキーは「できることなら毎年でも来日したい」と話す。 「日本には美しい建築のすばらしいホールがたくさんあり、今回初めてのホールで歌うのも楽しみです。ギターとのデュオはとても繊細な世界ですが、日本の聴衆のみなさんは繊細なものに対する豊かな感受性をお持ちですので、きっと楽しんでいただけるのではないかと思います。10月にお会いしましょう」
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