©Marco Borggreve実力者たちと奏でるシューベルトの傑作ローム ミュージック フェスティバル2025 in TOKYO10/11(土)14:30 サントリーホール ブルーローズ(小)問 1002(イチマルマルニ)03-3264-0244https://www.rmf.or.jp/jp/activity/rmfes/2025_inTOKYO/42成田達輝(ヴァイオリン)取材・文:柴田克彦は、楽しく演奏できてコンサートも華やぐのでいいのではないかと」 各曲への思いはさらに深い。 「『幻想曲』は本当に好きです。全体が長編小説のような感じで、タイトルの通り形式から抜け出そうとする試みが多くみられます。『 四重奏断章』は、最初のトレモロが不均衡さを表しており、そうした不安定な動機を発展させていく点が面白い。シューベルトは不安定な事柄を客観的に認識し、そのまま音楽に落とし込めた人ではないかと思います。つまり危険な世の中で危険を直視して音楽で描くことに成功している。それにこの曲は、音を聴いて理解するのではなく、奏者たちの振る舞いをそのまま受け取ってほしい。『ます』は、第4楽章がポピュラーですが、私は第5楽章のヴィオラの動きが好き。編成的にも旋律が色々な楽器に振り分けられている点からも親しみやすい作品ですね」 共演陣は全員、何らかの支援を受けた「ローム ミュージック フレンズ」でもある。 「皆気心の知れた音楽仲間です。ヴァイオリンの山根一仁さんは兄弟のような間柄で、ヴィオラの安達真理さんも10年来の付き合い。 チェロの中木健二さんはパリ音楽院の先輩で、ピアノの津田裕也さんは東京・春・音楽祭で共演した、本当に素晴らしい奏者。コントラバスの加藤雄太さんを含めて全員が実力者です。でないと『ます』は演奏できません。 それにこの曲は、こうした室内楽の会話ができる仲間たちと演奏した方が、我々も聴衆も楽しめると思います」 今回は、ただ身を置いても愉しい公演だが、「敬遠していた作曲家にようやく挑戦できる」と語る成田の意気込みを反映した音楽にぜひ注目したい。 新世代屈指の俊才ヴァイオリニスト・成田達輝が、10月の「ローム ミュージック フェスティバル2025 in TOKYO」に出演する。彼は2010~12年度のローム ミュージック ファンデーション奨学生。 パリに留学した6年間のうち3年間、月30万円の支援を受けた。これは、2010年ロン=ティボー、12年エリザベート王妃両国際コンクール第2位受賞と同時期にあたる。ゆえに奨学金の恩恵は絶大だった。 「それが全てですね。 経済的余裕が音楽へ踏み込む精神的余裕につながる。 若い時期の不慣れな海外では極めて大きなことです」 ローム ミュージック ファンデーション主催のコンサートには度々出演してきたが、今回は企画面から関わり、3演目全てに出演する。そこで選んだのは「シューベルト・プログラム」だ。 「最初に浮かんだのが『幻想曲』でした。シューベルトはあまり演奏してきませんでしたが、この曲は『 素晴らしい』という以上の名作。ただアプローチの方法がわからなかった。しかし私も彼が『幻想曲』を書いた31歳を超えて子どもも生まれたので、もう取り組めるかなと。 それに最近ルターの音楽修辞学『ムジカ・ポエティカ』を勉強したのが大きい。これは文学の修辞学を当てはめる方法なのですが、バッハが受け継いでシューベルトに通じています。かくして作曲法が理解できるようになってきた今なら、新しい視点で自信を持って取り組めると思いました」 プログラムは、前半が「ヴァイオリンとピアノのための幻想曲」と弦楽四重奏曲第12番「四重奏断章」、後半がピアノ五重奏曲「ます」。 「前半はしっかり聴いて、後半はくつろいでいただく内容です。『四重奏断章』は、カヴァコスのマスタークラスで聴いて『すごくいい曲だな』と思い、ずっと頭の中で鳴り続けていた曲。『ます』Interview
元のページ ../index.html#45