©Victory田中彩子 ソプラノ・リサイタル 2025「コロラトゥーラ・ファンタジー」9/19(金) 長野/木曽文化公園 文化ホール、9/27(土) アクロス福岡シンフォニーホール、10/12(日) 岐阜/サラマンカホール、10/26(日) 長野/八ヶ岳高原音楽堂、11/2(日) 所沢市民文化センターミューズ マーキーホール、11/8(土) 大阪/住友生命いずみホール、11/15(土) 豊田市コンサートホール、12/7(日) 第一生命ホールhttps://avex.jp/classics/ayakotanaka2025/取材・文:室田尚子アルバムは、まるで長年こうした曲を歌ってきたようなすばらしい出来映えだ。 「正直、とても難しかったですが、今できる最高の表現を追求したつもりです。特に、アレンジャーの金益研二さんにはとても感謝しています。以前から何回かご一緒したことがあったので、私が曲のコンセプトを伝えるだけでわかってくださって、録音中もその場の雰囲気でアレンジを調整するなど、柔軟に対応していただけたので、収録はすごく楽しかったです」 アルバムのリリースとほぼ同時に全国8ヵ所をまわるツアーもスタート。そのタイトルは「コロラトゥーラ・ファンタジー」と名づけられている。 「子どもの頃にファンタジー小説を読むのが大好きだったんですが、その楽しさやワクワク感をプログラムに反映させたいと思って、ファンタジー作品に出てくる曲や、他にも物語性のある楽曲を中心に構成しています」 10周年という節目を超え、田中彩子の音楽表現には「肩の力が抜けた」ような、より自然で自由なスタイルが表れてきているようだ。彼女自身「自由に音楽を追求できる環境のおかげ」と語る。コロラトゥーラという類稀な声が描き出す多彩な世界を、アルバムやライブで体験したい。CD『Coloratura Memories ―想い出のコロラトゥーラ』エイベックス・クラシックスAVCL-84179 ¥3300(税込)9/17(水)発売Interview コロラトゥーラ・ソプラノとして絶大な人気を誇る田中彩子がリリースするニュー・アルバムは、〈恋はみずいろ〉〈シェルブールの雨傘〉など60年代ユーロポップや映画音楽などの名曲をカヴァーしたもの。これまで彼女が歌ってきた音楽とは少し趣を変えたものに仕上がっている。 「子どもの頃から聴いてきた曲で、いつかは歌いたいと思っていたものを集めてみました。昨年、デビュー10周年を迎えてベスト・アルバムをリリースしたので、今年がそのタイミングとしてはいいのではと思ったのも理由のひとつです。どの曲も、世代を超えたエバーグリーン・ミュージックとして色褪せない魅力を持っているので、こうした楽曲にあまり馴染みのない若い世代の方にとっても新たな出会いになってくれればいいな、と思っています」 アルバムを聴いてみると、彼女の歌の「すがた」のようなものが、明らかにこれまでのオペラやクラシックの作品を歌う時とは違っていることに気づく。一つひとつの曲の持つ世界観が伝わってきて、例えばその映画のシーンが目の前に広がってくるようなのだ。 「とにかくテクストを熟読して、その上でそれぞれの言語の発音に徹底的にこだわりました。これまでのようにコロラトゥーラの声質を強調するのではなく、この声でどうしたら曲の持つ世界観を表現できるかということを重点的に考えて歌っています。誤解を恐れずにいえば、“勇気を持って歌わない”というイメージです」 作品の持つ世界観を表現する。それはまさにリートなど芸術歌曲の表現に通じるものだ。 「そうなんです。リートを勉強する時先生にいちばん最初に言われたのが、“声を聴かせようとしない。言葉がすべて”ということ。今回のアルバム制作を通じて、リートの本質を深く理解し、消化できた気がしています」 ある意味自らの「長所」を封印しているという点では、「歌手・田中彩子」にとってかなりのチャレンジだったことが想像できる。しかし、出来上がった30Ayako Tanaka/ソプラノ ジャンルを超えた名曲カヴァーで新境地を開拓田中彩子
元のページ ../index.html#33