eぶらあぼ 2025.9月号
129/149

ショスタコーヴィチ:交響曲第13番「バビ・ヤール」/井上道義&N響おやすみまえのお話/須田美穂井上道義最後の「バビ・ヤール」はあたたかい。厳しさも恐怖も不足なく、井上ならではのユーモアは鮮烈の極みだが、ソリストと合唱の重く尖らない声質も相まって、ヒューマンな温もりが横溢しているのだ。旋律は音価いっぱいに歌われ、丁寧なアーティキュレーションが施される。声高に叫ばずとも、純音楽的な積み重ねこそが巨大な世界を構築し、底知れぬ深淵を覗かせる。キーウ近郊バビ・ヤールでのユダヤ人虐殺と、ソ連の反ユダヤ主義を告発する本作。この内容が改めて切迫感をもつ現代こそ、井上の辿り着いたショスタコーヴィチ演奏が必要だと痛感するばかり。必携の名盤。(林 昌英)須田美穂は桐朋学園大学を経てデトモルト音楽大学を首席で卒業したピアニスト。想像し感じたものを音で描き出すことを大切にした音楽づくりで聴衆を魅了しており、本盤はそんな彼女のピアニズムが見事に結実したものとなっている。シューマンの「子供の情景」ではやわらかく繊細な音色を活かし、物語を紡ぐようにあたたかい演奏を展開。モーツァルトやシャブリエでも清潔感のある丁寧な表現を聴かせてくれているが、ウクライナの作曲家サムイル・マイカパルによる子どものための作品ではさらに彼女の音色の魅力が発揮され、幼い頃の幸せな記憶を呼び覚ましてくれるかのようだ。(長井進之介)ユーフォニアムだけで編成された四重奏団。ややもすれば単調に響いてしまうような印象を与えがちなジャンルではあるものの、この若いメンバーによるアンサンブルは、柔らかい響きを巧みに重ね、さらに小気味いい運びで、そんな先入観を軽やかに打ち砕いてくれる。先の展開がなかなか読めない変奏曲に、ショパンのメドレーを折り目正しく奏でていくことで生まれるユーモア。活発な委嘱活動によるものだろう、オリジナル曲だけで編成されている点も評価したい。この楽器の特性を生かすために、委嘱にあたっては細やかなプロセスを経たのではないだろうか。  (鈴木淳史)「ゴルトベルク変奏曲」のラインベルガーとレーガーによる2台ピアノ版(1883/1915)。主題のアリアから、装飾音が取られて、旋律の印象が変わる。第1変奏ではオブリガードの旋律が加わり、それが雄弁に歌われる。第4変奏では迫力ある和音が鳴り響き、バッハ特有の模倣楽句もくっきりと浮かび上がる。第10変奏フゲッタでは、対位法の各声部がくっきりと弾き分けられて、2台ピアノの強みを発揮。第15変奏反行カノンのミノーレの情感、第25変奏の美しいアリオーソ、第30変奏の喜々としたクォドリベット、味わいを増したアリアまで、聴き所満載だ。同時発売の独奏盤と共に、夭折のピアニスト・佐藤の遺言。(横原千史)井上道義(指揮)NHK交響楽団アレクセイ・ティホミーロフ(バス)オルフェイ・ドレンガル男声合唱団須田美穂(ピアノ)ユーフォニアム四重奏団 OrigAmi【安東京平 牧田有紗 岩満貴大 濱岡雪乃(以上ユーフォニアム)】塚谷水無子 佐藤祐介(以上ピアノ)Pooh’s HoopPCD-1706 ¥オープン価格ショスタコーヴィチ:交響曲第13番「バビ・ヤール」収録:2024年2月、NHKホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00893 ¥3850(税込)シューマン:子供の情景/モーツァルト:ピアノ・ソナタ K.280 /シャブリエ:「絵画的小品集」より第10曲〈スケルツォ=ワルツ〉/マイカパル:子どもの歌、お話、ちょうちょう、つかの間の幻、春、不安なとき、小さなお話、子守歌、おやすみまえのお話、伝説、マリオネットの行進、イタリアのセレナードコジマ録音ALM-7317 ¥2970(税込)デドス:オリガミ/石川亮太:ショピニアム/兼松衆:アントラクト/リューディ:ある日本の歌による変奏曲/新川奈津子:マルチレイヤー III /岩満貴大:イディオムス妙音舎MYCL-00062 ¥3410(税込)J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲(ラインベルガー&レーガー 2台ピアノ編曲版)Originals〜コンサート・シリーズ Vol.2/ユーフォニアム四重奏団 OrigAmiJ.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲(ラインベルガー&レーガー 2台ピアノ版)/塚谷水無子&佐藤祐介126SACDCDCDCD

元のページ  ../index.html#129

このブックを見る