ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第6番&第13番「大フーガ」/ウェールズ弦楽四重奏団ブラームス:交響曲第2番/ジョナサン・ノット&東響ソング/伊地知一子ピアノ・リサイタル at 日本武道館/角野隼斗2017年に開始されたウェールズQのベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲録音の完結編。変ロ長調の2曲が収められ、第13番の終楽章は「大フーガ」が採用されている。彼らは全集録音途上の8年間に3回の全曲公演を行ったというだけあって、もはや融通無碍の域に達していると言っていい。全てに吟味された音と表現が成就されていながら、あくまで自然に流れゆく音楽……「弦楽四重奏は積み重ねが大事」の常識を改めて実感させられる。“弾み”が心地よい第6番第1楽章から、異例なほど温和で細やかな「大フーガ」(この演奏は驚き)まで、終始味わい深い一枚。 (柴田克彦)ブラームスの音楽とは、「移行の芸術」だ。ジョナサン・ノットと東京交響楽団によるこの「交響曲第2番」を聴いていたら、自然とこの言葉が頭に浮かんだ。個性豊かな主題群が、鋭い対比関係ではなく、滔々たる川の流れにおいて変化する水面のように、「異なるけれどもひとつのもの」として体感されてくる。それは無手勝流によってではまったくなく、むしろ逆に緻密な読みの積み重ねの結果だろう。モティーフや和声の変容が細密画のように把握され、それが大きな呼吸の中に解き放たれてゆく。その方向性がオーケストラの隅々まで深く共有され、この上なく豊かな「第2番」の演奏が実現した。(矢澤孝樹)ベルカントのような歌唱法とは異なり、日常の発声の延長で言葉の特性を最大限尊重して歌う、しなやかな歌がソング。テーマも庶民の等身大の情感や社会風刺などを扱う。本盤はパフォーマーとして活動する伊地知の原点回帰の一枚。1978年、高校を卒業して鹿児島からあてもなく上京した彼女はこんにゃく座のソングに魅了され、そのまま座員になる。同時期に東京藝大を卒業して入座したのが本盤でピアノを弾く作曲家・萩京子だった。戦前ドイツのブレヒト/ヴァイルの協業から生まれたソングは、極東の島国の芝居小屋のような場所で種を撒かれ芽を出した。そんな時代の息吹が約半世紀を経て蘇る。(江藤光紀)日本武道館でのリサイタルを収録した映像。最初のショパンのスケルツォとワルツは音楽の表情が硬いが、リストのハンガリー狂詩曲からは持ち前のリズム感覚で本領発揮。なかでも、モーツァルトの「トルコ行進曲」による変奏曲や、ラヴェルの「ボレロ」といった編曲では、主題を展開させるのではなく、わずかな変形を繰り返して聴き手を引き込んでいく。2台のピアノにシンセサイザーなど八面六臂に楽器を弾き分けた自作の「追憶」では、ガーシュウィン、ラヴェル、ライヒ、バッハ、坂本龍一などからの引用も巧みにちりばめつつ、スマートかつ豊饒な音世界を作り出した。(鈴木淳史)ウェールズ弦楽四重奏団【﨑谷直人 三原久遠(以上ヴァイオリン) 横溝耕一(ヴィオラ) 富岡廉太郎(チェロ)】ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第6番、同第13番「大フーガ付」フォンテックFOCD9923 ¥3080(税込)ブラームス:交響曲第2番収録:2023年7月、ミューザ川崎シンフォニーホール&サントリーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00882 ¥3850(税込)ブレヒト:マリー・Aの思い出/ヴァイル:バルバラ・ソング、溺れた少女のバラード/萩京子:ひどく、ルフラン、鳥、HELP!、メッセージ、暗い柳の木立のかげ、遺言/アイスラー:世界の示す友情について、すももの木/林光:うた、暗い晩、ぐるぐるまわりの歌、新しい歌 他伊地知一子(歌)萩京子(ピアノ)コジマ録音ALM-7312 ¥3300ショパン:スケルツォ第1番、ワルツ第14番、エチュード op.25-11「木枯らし」/モーツァルト(角野隼斗編):24の調によるトルコ行進曲変奏曲/リスト:ハンガリー狂詩曲第2番(カデンツァ:角野)/角野隼斗:Human Universe、追憶、3つのノクターン/ラヴェル(角野編):ボレロ 他角野隼斗(ピアノ)収録:2024年7月、日本武道館(ライブ)ソニーミュージックSIXC 114 ¥6600(税込)124CDSACDCDBlu-ray
元のページ ../index.html#127