ウィーンの夏の風物詩、今年の6月13日に行われた公演が早くもディスク化。J.S.バッハの「エア(アリア)」で静かに始まるが、これは3日前に発生したグラーツでの銃撃事件の犠牲者追悼のため。ただし外界の事件を感じさせるのはこの部分のみで、その後は管弦楽の名曲あり歌あり合唱ありの楽しい時間へ。ソヒエフはウィーン・フィルを豊潤さそのままに快活に歌わせ、申し分ない。ウクライナもガザも入り込む余地はないが、この極上の空間を支える社会がいかにもろくそれゆえに尊いか、それを反語的に感じさせる。最後のレハール〈友よ、人生は生きる価値がある〉が甘美さゆえに痛切に響く。(矢澤孝樹)「スクリャービン・リサイタル」と題して尾城杏奈が取り組んできたスクリャービンのソナタ全集が、この第3弾により完結した。本作では、作曲家若き日の習作であるソナタ変ホ短調(WoO19)と幻想ソナタ(WoO6)を収め、それらと同時期に書かれたワルツや幻想曲も取り上げた。尾城の節度ある緩急や繊細なタッチは、スクリャービンの初期作品らしい柔らかさ、瑞々しい音楽性を伝える。また比較的演奏機会の少ないソナタ第8番の、細やかなモティーフや複雑に移ろうハーモニーの豊かさを、尾城は絶妙な間合いを持たせながら立体的に奏で、作品に込められた詩的世界を見事に現出させている。(飯田有抄)テレマン室内オーケストラを60年以上率いるレジェンドが、同楽団を母体とするバロック楽器の演奏団体を指揮した「四季」の新録音。ヴァイオリン独奏の浅井もテレマン室内〜のソロ・コンサートマスターゆえに、互いを熟知した面々による演奏であり、全体にそうした奏者たちならではの強味が発揮されている。だがポイントはやはりバロック楽器の使用だろう。それが功を奏してか、キビキビした運びによる引き締まった演奏が展開されており、覇気や躍動感も十分。表情多彩なヴァイオリン独奏も随所で耳を奪う。併録の「調和の霊感」第11番もキレの良い快演。 (柴田克彦)「デュオM&M」として活動する、石上真由子と江崎萌子による小品集。シマノフスキは妖しくも明瞭、エルガー、ワーグナーらの愛すべき旋律は滋味深く、新編曲の『他人の顔』〈ワルツ〉は新たな定番になりそう。曲順の流れも良く、各曲とも聴きほれてしまう仕上がり。ことに驚かされたのが、真に「対等」に奏でられた「スペイン舞曲」(抜群のキレ!)と「愛の喜び」で、ピアノにどれほど大切な音があるか自ずと耳が行く精妙な構築、でも表現は自由闊達。二人はもはや“合わせる”のではなく“同期する”かのよう。「両者が対等」の何たるかを示す、「協奏」をこえた「共奏」の真髄。 (林 昌英)尾城杏奈(ピアノ)浅井咲乃(バロック・ヴァイオリン)延原武春(指揮)コレギウム・ムジクム・テレマンJ.S.バッハ:管弦楽組曲第3番より「アリア」/チャイコフスキー:バレエ「くるみ割り人形」より〈花のワルツ〉/プッチーニ:歌劇《トゥーランドット》より〈誰も寝てはならぬ〉/レハール:オペレッタ《ジュディッタ》より〈友よ、人生は生きる価値がある〉 他トゥガン・ソヒエフ(指揮) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ピョートル・ベチャワ(テノール) ウィーン少年合唱団収録:2025年6月、ウィーン(ライブ)ソニーミュージックSICC 2367 ¥2970(税込)スクリャービン:ワルツ op.1,WoO7,WoO8、幻想曲、ピアノ・ソナタ WoO19、幻想ソナタ WoO6、ピアノ・ソナタ第8番オクタヴィア・レコードOVCT-00211 ¥3850(税込)ヴィヴァルディ:協奏曲集「和声と創意の試み」より第1〜4番「四季」、協奏曲集「調和の霊感」第11番ナミ・レコードWWCC-8036 ¥3300(税込)シマノフスキ:神話/エルガー:カリッシマ/ファリャ(クライスラー編):スペイン舞曲第1番/ワーグナー(ヴィルヘルミ編):アルバムの綴り/クライスラー:愛の喜び/武満徹(松□国生編):弦楽オーケストラのための「3つの映画音楽」より『他人の顔』〈ワルツ〉 他石上真由子(ヴァイオリン)江崎萌子(ピアノ)キングレコードKICC-1631 ¥3300(税込)ウィーン・フィル・シェーンブルン・サマーナイト・コンサート2025〈スクリャービン・リサイタルIII〉ピアノ・ソナタ全集 Vol.3 /尾城杏奈ヴィヴァルディ:四季/浅井咲乃&延原武春&コレギウム・ムジクム・テレマン他人の顔〜ヴァイオリン&ピアノ作品集/石上真由子&江崎萌子122CDSACDCDCD
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