笹沼 樹 ©Taira Tairadate實川 風 ©Taira Tairadateイェルク・ヴィトマン ©Marco Borggreveハーゲン・クァルテット ©Andrej Grilc夜クラシック Vol.38 笹沼 樹(チェロ)・實川 風(ピアノ)実力伯仲のデュオによる聴き応え満点のラテン・プロ〈ハーゲン プロジェクト フィナーレ〉PART 1 ハーゲン・クァルテット 第1夜〜第3夜40余年の活動の集大成を示す最後の旅路10/3(金)19:00 文京シビックホール問 シビックチケット03-5803-1111https://www.b-academy.jp/hall/【第1夜】11/11(火) 【第2夜】11/12(水) 【第3夜】11/13(木)各日19:00 TOPPANホール 7/23(水)発売問 TOPPANホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.com49文:林 昌英文:柴田克彦 文京シビックホールの人気シリーズ「夜クラシック」に、チェロ笹沼樹とピアノ實川風が登場。ソリストとして大活躍中の笹沼は、カルテット・アマービレ、東響客演首席奏者など、様々な編成でも要職にある名手。實川もソリスト活動に留まらず、弦とのアンサンブル、さらには作曲家としての活躍も際立っている。人気と実力を兼備した、好調の俊英たちの共演は期待大。 プログラムがまた興味深い。基本は多彩なラテン・プロで、ドビュッシーのチェロ・ソナタ、ピアソラ「ル・グラン・ 弦楽四重奏は積み重ねが不可欠……これは誰もが知る不変の真理だ。その点、世界の最前線で40余年の活動歴を誇るハーゲン・クァルテットに敵うグループはもはや存在しないと言っても過言ではない。1981年の結成時からハーゲン兄弟4人で活動し、第2ヴァイオリンがライナー・シュミットに代わってからでさえ38年が経つ。(当初)ドイツ・グラモフォンから続々リリースされる数多くのCDで驚嘆させた無類の実力に、長年の積み重ねが加わったその演奏には、緻密さのみならず行間の妙=味わいが横溢。ザルツブルク/オーストリア基盤ゆえの古雅な伝統と温かみや親密さを絶やさない点も含めて、エッジの効いた後発組とはひと味異なる、唯一無二の存在感を放ってきた。そんな彼らが2025/26シーズンをもって引退するという。それはまさに衝撃のニュースだった。 そこでハーゲンQが「アジアの我が家」とまで語るTOPPANホールでは、2度にわたる「ハーゲン プロジェクト フィナーレ」を開催する。同ホールで彼らは、2003年を皮切りに20年もの間数多の公演を行い、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会をはじめとする様々なプロジェクトで我々を魅了してきた。弦楽四重奏は演奏の積み重ねと同時に会場もまた重要な要素。弦楽器に最適のアコースティックと、室内タンゴ」などの楽しみな名作が並ぶ中、目を引くのがカサド「チェロとピアノのためのソナタ」。彼の無伴奏組曲は著名だが、デュオのソナタの実演は貴重。熱いスペイン情緒に覆われ、チェロの技巧にピアノの表現も際立つ逸品で、彼らの演奏で聴けるのは好機だ。ここに實川の新作「遊戯」の初演が加わる。弦楽器も知悉する實川の作品には独特の情趣があり、この日は気心知れたコンビがどんな「遊戯」を聴かせるのか。広く注目すべきステージだ。楽にふさわしいサイズや雰囲気を持った同ホールは、この世界のトップ四重奏団にとって最良の“ホーム”となり、“彼らのいま”を共にクリエイトしながら、満員の聴衆に室内楽の醍醐味や弦楽四重奏の奥深さを満喫させてきたのだ。 ラストを飾る当プロジェクトは全5回。そのうち3回が、元々ホール25周年を記念して企画されていた今年11月に3夜連続で行われる。第1夜は、2017年のツィクルスで意外な組み合わせの意味を明示したショスタコーヴィチとシューベルトの最高傑作に、全てのベースとなるバッハ作品を加えた意義深いプログラム。第2夜は、彼らが世に魅力を知らしめたウェーベルンの2曲と、ベートーヴェン最後の四重奏曲第16番、シューベルトの有名曲「死と乙女」からなる、いわば十八番中の十八番プログラム。そして第3夜は、現在最も刺激的なクラリネット奏者&作曲家イェルク・ヴィトマンが出演。2015年の共演が契機となってのちに作曲され、ハーゲンQに献呈されたヴィトマン作のクラリネット五重奏曲の日本初演が興趣を盛り上げ、モーツァルトの超名作=クラリネット五重奏曲とともに至福の時をもたらす。どの公演も世界最高クラスの集大成(の第1弾)というべき垂涎の内容。名クァルテット最後の崇高な輝きを見逃せないのは、むろん言わずもがなだ。
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