eぶらあぼ 2025.8月号
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29100周年プレシーズン、N響の未来を見据えて取材・文:林 昌英 写真:中村風詩人 NHK交響楽団は、2026年に創立100年を迎える。その前年の今年5月、アムステルダムのマーラー・フェスティバル参加を含めたヨーロッパツアー公演を敢行。その熱気冷めやらぬ帰国翌週、第1コンサートマスターを務める郷古廉と長原幸太に、ツアーの成果や、100周年を迎えるN響の現在と未来について語ってもらった。――ヨーロッパツアーはお二人ともN響では初めてですね。ツアー全体の印象などは?長原 8公演同じ演奏にならず面白かったし、違うホールにすぐに適応するメンバーのフレキシブルな対応力にも改めて驚きました。ドレスデンでは楽員も事務局員も一緒に100人の宴会が実現したんですよ。知らない人とも喋れたし、いい時間だった。郷古 このツアーはメンバーの距離がかなり縮まり、N響の新しい時代に向けて、改めて結束力が強まりました。何といってもコンセルトヘボウでのマーラー3番と4番。あの緊張感と“やってやるぞ!”という感覚は忘れられません。演奏も本当に素晴らしかった。――今回のツアーでは、ひと月近くお二人が一緒のプルトで、お互いのコンマスぶりを間近で見ていかがでしたか?郷古 指揮者の一挙手一投足をよく観察して、あらゆる音楽的なものをキャッチする。さらに視野の広さもすばらしいです。“今こんなところを聴いているんだ”と意外に感じるところもありますが、説得力があって参考になります。今回のマーラー3番のような大編成で予想外のことが起きても、しっかり締められます。長原 音楽に対してストイックだし、楽譜の裏まで読み込んでそれを体現できる。隣りで弾くときはなるべく寄り添うのが仕事と思っていますが、彼には独自の音があるので、この音で行きたいんだってパッとわかる。彼の音にはもう一瞬で吸い寄せられる。それが楽しかったですね。――首席指揮者のファビオ・ルイージさんとの関係性はいかがでしょうか?郷古 就任から3年目で、彼のN響に対する信頼度というか、距離はすごく縮まってきています。今回のヨーロッパツアーはルイージとN響の一つの結晶という意味もありました。我々も彼の音楽的な方向性がわかってきて、すると彼はこれもやってみようとか段階ごとに要求が高くなって、それに我々も全力で応える。いい循環で良い関係が築けているんじゃないかなと思います。長原 僕は後から入ったので、最初は一歩引いた位置から見ていましたが、ファビオはこのオケを信頼しているな、そしてオケは彼が欲しい音をわかっていると感じられました。良好な関係なので、僕としてはストレスなく入れました。郷古 マーラー3番を振ったときの彼の気迫は、今まで見たことがないような姿でした。ちょっとこっちが引くぐらいに(笑)長原 初日のリハーサルから汗だくで、すごくマーラーが好きだっていう気持ちが伝わってきましたね。――N響は来年100周年。節目に向けて今のN響をどういうふうに感じていますか?郷古 今すごく結束力があって、コンサートマスターも我々の時代になって、これがN響という音をみんなともっと共有していきたい。長原 メンバーもだいぶ若返ってきていますし、とにかくみんな持っているものを全部出してほしい。自分なりに課題を持って、照れずに表現する作業をしていけば、より豊かなものになると思う。郷古 N響独自のカラーが作れたらさらに面白くなると考えています。長原 N響はアジアでナンバーワンであり続けなきゃいけないと思うし、音楽家を目指す若者の絶対数が減る中で、自分も将来入りたいと憧れられる日本のオーケストラという存在でありたい。 現在N響はゲスト・コンサートマスターに川崎洋介という経験豊富で身体性もすばらしい奏者も加わっている。「3人のキャラクターが全然違うのが面白いし、スタイルは違うけれど同じところを目指している感じがする」と郷古が語る通り、いずれ劣らぬ名手かつ個性的な3人の柱は見応えも抜群。100周年という大切な節目を通過点として、新たな時代に入るN響はこれまで以上に楽しみな存在となる。InformationNHK交響楽団□ N響ガイド0570-02-9502 https://www.nhkso.or.jp※今後の公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

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