eぶらあぼ 2025.8月号
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BAROQUE/ARK BRASSVoyage vers l’horizon〜水平線への旅/村田理夏子ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集 Vol.1/北村明日人ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 作品44・97「大公」・121a/ヘーデンボルク・トリオSACDCDCDCD114温雅かつ堅実なベートーヴェンを聴かせる北村明日人が、ピアノ・ソナタ全集の録音に着手した。シリーズ第1弾は、初期の第3番、中期の第20番と第26番「告別」、そして後期の第28番と、創作全期にわたる構成。調性の移ろいを鮮やかに伝える音色の変化、考え抜かれた和音のバランス、駆け抜けるようなパッセージの自然さが、各ソナタ・各楽章の持つキャラクターを明確に描き、瑞々しく伝える。とりわけ緩徐楽章の深い情感には強烈に惹きつけられる。ピアノ表現を超えて、ベートーヴェンのシンフォニックなアイディアをも届け、北村の作曲家に対する敬愛の深さを映し出している。(飯田有抄)日本人の母親を持つ三兄弟によるヘーデンボルク・トリオは、ベートーヴェンのピアノ・トリオの録音に取り組んできた。これはその完結編。「大公」という曲名にふさわしい、貴族の優雅さを湛えた品のよい演奏だ。まずピアノの発音やタッチが極めて繊細。軽やかで転がるような粒立ちを持った音を息の乱れなく丁寧にコントロール。精緻に編まれたレースのごときクリアなピアノのテクスチュアの上に弦の柔らかく優しいサウンドが乗って、なんともノーブルで心地よいアンサンブルになっている。まるで呼吸するように自然で、音楽の国オーストリアの家庭で育った3人にして可能な親密さを感じた。(江藤光紀)フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルは、バロックやルネサンスの作品を盛んに演奏していた。そのレパートリーを日本屈指のブラス・アンサンブルが取り上げる。トランペットの佐藤友紀、ホルンの福川伸陽、トロンボーンの青木昂、テューバの次田心平の名手をコア・メンバーに揃え、ゴージャスに響くユニゾン。装飾音の表現も繊細で、かっちりとしたアンサンブルから作り出される立体的なバランス。新たに編曲したファーナビー作品も新鮮に響く。これらの作品を原曲で耳にすることも増えた現在、ブラス・アンサンブル版が果たした意義もよく伝わってくるはずだ。 (鈴木淳史)村田理夏子のソロCD第2弾は、ラヴェルのピアノ独奏曲全集。村田の技術の高さと音色の多彩さ、理知的な構造把握は、ラヴェルにぴったり。難曲とされる「夜のガスパール」では、〈オンディーヌ〉の水の煌めきや〈スカルボ〉の不気味な妖怪の蠢きを驚くべきリズムの切れ味で描き切る。「鏡」の〈道化師の朝の歌〉でもウキウキするスペイン風リズムの洒落た味と調子外れの歌の対比がいい。初期の曲では「パレード」が面白い。バレリーナたちとの即興的な遊びが楽しく、若きラヴェルの才気を感じさせる。「クープランの墓」も優雅な表情や不思議な響き、ユーモアの味わいなど出色の出来。充実のラヴェル全集だ。(横原千史)北村明日人(ピアノ)ヘーデンボルク・トリオ【ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(ヴァイオリン) ベルンハルト・直樹・ヘーデンボルク(チェロ) ユリアン・洋・ヘーデンボルク(ピアノ)】ARK BRASS村田理夏子(ピアノ)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第3番、同第26番「告別」、同第20番、同第28番オクタヴィア・レコードOVCT-00215 ¥3850(税込)ベートーヴェン:ピアノ三重奏のための14の変奏曲、ピアノ三重奏曲第7番「大公」、ピアノ三重奏のための「おいらは仕立屋のカカドゥ」による変奏曲カメラータ・トウキョウCMCD-28396 ¥3080(税込)バード(ハワース編):オックスフォード伯爵の行進曲/シャイト(ジョーンズ編):戦いの組曲/ファーナビー:空想・おもちゃ・夢(ハワース編)、ヴァージナルの終わりなき夢(石川亮太編)/ヘンリーVIII世(ハワース編):組曲「棘のないバラ」/アイヴソン編:スザート組曲 他エイベックス・クラシックスAVCL-84178 ¥3300(税込)ラヴェル:グロテスクなセレナード、古風なメヌエット、パレード、亡き王女のためのパヴァーヌ、水の戯れ、ソナチネ、メヌエット 嬰ハ短調、鏡、夜のガスパール、ハイドンの名によるメヌエット、高雅で感傷的なワルツ、…風に、前奏曲、クープランの墓レグルスRGCD-1060/1(2枚組)¥4400(税込)

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