eぶらあぼ 2025.6月号
32/133

29ここは素晴らしい響きと国内最大級のオルガンを持った日本有数のホールです取材・文:柴田克彦 写真:Funada Kayo 京都コンサートホールが今年開館30周年を迎える。2020年4月から24年3月まで同ホールの館長を務め、24年4月以降はミュージックアドバイザーの立場にあるのが、日本を代表する指揮者の一人・広上淳一。彼は、2008〜22年に常任ポストを務めた京都市交響楽団が拠点とする同ホールでの演奏歴も長い。 「ここは日本有数のコンサートホールです。特徴はまず素晴らしい響き、そして西日本最大級のオルガンがあること。京都の町のシンボルであり、西欧文化の象徴的存在にもなっています。それに京都の重要な文化圏である北山に位置している点もいい。近隣には植物園や素敵なレストラン等もあって、市民がゴージャスな芸術を楽しむ習慣を広げています。ホールの響きの良さと市民に愛されているのを示す事実の1つが、ここで行っている京響の定期演奏会の多くが完売になっていること。皆が足を運んでくれるようになり、新しいファンも増えました」 11月には、30周年記念事業の一環として、京都コンサートホール × 京都市交響楽団プロジェクトVol.6「広上淳一 × ローマ三部作」が開催される。 「『ローマ三部作』は私が日本フィル正指揮者デビュー公演で指揮した演目。当時色々なことを教わりましたし、私にとって3曲まとめての演奏はその1991年以来34年ぶりとなるので、若干の懐かしさも込めて選びました。もちろんホールの自慢である日本屈指のオルガンを生かす狙いもあります。またバーバーの『オルガンとオーケストラのための祝典トッカータ』は、フィラデルフィア管の本拠地に新しいオルガンが設置されたことを祝った作品。今回のコンセプトにもピッタリなので最初に演奏することにしました」 レスピーギの「ローマ三部作」はイタリアを代表する人気管弦楽曲だ。 「レスピーギはこのオペラの国において器楽曲で名をなした大巨匠。ラヴェルとは違うタイプのオーケストレーションの魔術師です。『ローマ三部作』は、そうした管弦楽の壮大さと各曲のコンセプトが違う点が魅力。『祭り』はローマの明と暗、『松』はローマの歴史を描き、『噴水』は各地にある噴水に焦点を当てた柔らかめの作品と、異なる材料で連作的な物語を3つ作った点が凄いところです」 広上がシェフとして大幅に飛躍させた京響も「ローマ三部作」を演奏するに相応しい。 「京響の躍進にも当然このホールは欠かせません。しかも次の常任指揮者・沖澤のどかさんのもとでさらに上手くなっています。在京の有力楽団がベルリン・フィルだとすれば、京響の立ち位置はコンセルトヘボウ管やチェコ・フィル。ヨーロッパナイズされた個性が魅力です」 さらに来年1月には、「京都市ジュニアオーケストラ 創立20周年記念コンサート」を、大友直人、下野竜也とともに指揮する。 「京響の常任時代にスーパーバイザーを務めていましたが、世界クラスの技量を持った、日本一上手いジュニア・オケといえるほどの存在。私は今回、やはりホールのオルガンを生かしたいので、サン=サーンスの『オルガン付き』交響曲を指揮します」 3月には、広上が現在シェフを務めるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の地元「石川県ジュニアオーケストラ」との合同(金沢のホールにも素晴らしいオルガンがある)で同曲を演奏し、震災の被災地等も訪れるというから、こちらも意義深い企画だ。 京都コンサートホールの今後についても思いを馳せる。 「音楽で幸せになれる場所であってほしいですし、館長である哲学者・鷲田清一さんが文学者等を招いたトーク・イベントを企画してもいます。また、優秀な人材が多い地元の若い音楽家の紹介も重要。そして京響のリハーサルがすべてこのホールでできるようになるといいですね」 広上自身は、今年1月からマレーシア・フィルの音楽監督に就任し、OEKとシェフを兼任するほか、日本フィル、札響、そして京響(何と肩書きはズバリ『広上淳一』)にもポストを持つなど、多忙な活動が続く。その中で行う京都コンサートホールでの公演にぜひ注目したい。

元のページ  ../index.html#32

このブックを見る