それでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのために 2週間で4ヵ国を巡る、かなり無茶な旅に出ていた。日韓国交正常化60周年記念公演、次にイタリアのエアロウェーブス「スプリング・フォワード・フェスティバル」(以下、ASF)、そして香港を代表するカンパニー・城市当代舞踊団 CCDCの新芸術監督サン・ジジアの作品鑑賞だ。イタリアでは、オレが主催する「舞踊評論家【養成→派遣】プログラム」(以下、養成プログラム)の第二期生、瀧瀬彩恵と中本登子の2名をASFに派遣した。開催地の古都ゴリツィアは第二次世界大戦で隣国スロベニアのノヴァ・ゴリツィアと分割された。今回は20分ほどのバス移動で、両国の劇場をめぐり約25のダンス作品を鑑賞した。 ASFは、ヨーロッパ各地から選ばれた新進気鋭のアーティストが集うフェスティバルだ。権威に裏打ちされていない才能を自分の眼で評価する、評論家に最適なフェスといえる。ASFからは養成プログラムにも多大な協力を得ている(派遣にはEU・ジャパンフェスト日本委員会の支援も受けた)。 アイルランドのジャンク・アンサンブル『爆弾のように踊る』は、老カップルが半裸で登場し、互いの二の腕や腹の贅肉を揺らし合う。女性はかつてピナ・バウシュのカンパニーに10年間所属したダンサーで存在感がある。2人で「死ぬ練習」をするが、やがて疲れ果てて生き続ける。シリアスだが明るく心温まる作品。なんと本作は若いアーティストが先輩ダンサーに振り付けており、日本でもこういう作品が出てきてほしいものだ。 フランスのプロダクションXx『Gush is Great』は、5人のパフォーマーが一列でゆっくり前進しながら、カードやスカーフ、子どものおもちゃなど様々な物を落としていく「だけ」の作品。しかし誰もいない舞台に散乱した物を見ると、既視感を覚える。戦闘後の廃墟に転がる瓦礫のようなのだ。そして終盤に響いていた花火のような音が実は爆撃や機関銃の音114だったと気づく瞬間、ザッと鳥肌が立ったのである。 特別プログラムでは、大人気のシルヴィア・グリバウディと地元のアンドレア・ランパッツォによる『アマチュアの密輸業者』が上演された。タイトルは、1947年に有刺鉄線で隔てられたゴリツィアの国境が盗品の絶好の隠し場所として使われた故事に由来する。ユーモアを交えた作品は観客を巻き込み、歴史の重みを余韻として残した。 さて今年のASFはヨコハマダンスコレクションと提携し、初日に「横浜赤レンガ倉庫1号館 振付家」の小㞍健太がイタリアのダンサーとコラボレーション作品を披露。また、養成プログラムの協力者でもあるDance Base Yokohamaに滞在する海外アーティストもおり、日本と新しい形の交流が始まった記念すべき年だと言えそうだ。 養成プログラムの瀧瀬と中本は、公演の合間に海外ディレクターやアーティストへ積極的に話しかけていた。このような場でなければ出会えない人々との対話は、視野を広げる貴重な機会だ。そしてオレが30年以上かけて築いたネットワークを次世代に引き継ぐことも、養成プログラムの重要な目的である。彼らの詳細なレポートは近日公開予定だ。 で、「舞踊評論家【養成→派遣】プログラム」は、本号発行時には第三期受講生の募集を開始しているはず。年齢やキャリアは問わない。従来の批評の閉鎖性を打ち破る挑戦者を待っているぞ。Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。「ダンス私塾オンライン」開設。皆様の参加をお待ちしております!乗越たかお第128回 「2週間で4ヵ国。イタリアの古都で驚きのダンスを見る」
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