eぶらあぼ 2025.5月号
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カーチュン・ウォン ©Ayane Satoサー・スティーヴン・ハフ ©Sim Canetty-Clarke©T.ZYDATISS第770回 東京定期演奏会 5/9(金)19:00、5/10(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://japanphil.or.jp48文:飯尾洋一文:鈴木淳史 いま熱い注目を集めるコンビが、首席指揮者カーチュン・ウォンと日本フィル。シンガポール出身のカーチュンは、オーケストラに新しい時代をもたらしつつある。第770回東京定期では、芥川也寸志、ブリテン、ブラームスを組み合わせた興味深いプログラムが組まれた。 芥川也寸志の「エローラ交響曲」とブリテンのバレエ音楽「パゴダの王子」組曲の2曲には、このコンビならではのアジアへの眼差しが反映されている。「エローラ交響曲」の作曲のきっかけとなったのはインドのエローラ石窟群。作曲者は地上に建造するのではなく、地下に彫り込まれた大寺院を目にして、足し算ではなく引き算の作曲法があるのではないかと発想して、この曲を書いたという。だが作品はきわめてパワフルで、アジア版「春の祭典」と呼びたくなるような雄弁さを持っている。一方、ブリテンの「パゴダの王子」はインドネシアのガムラン音楽に触発されて書かれた作 フォルテピアノ奏者トマシュ・リッテルが、TOPPANホールに初登場。第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで川口成彦と雌雄を決して勝利、その後、ブルージュ国際古楽コンクールでも優勝に輝いたポーランドの新鋭だ。 プログラムが充実しているのはTOPPANホールならでは。まず目を引くのは、ショパンの「バラード」全4曲だ。陰影も豊かな1843年製プレイエルでの演奏となる。リッテルの弾くショパンは、明瞭なだけではなく、じつに官能的だ。弦をそのまま爪弾いたような肉感的な繊細さも伴いつつ、ドラマに満ちたショパンを響かせてくれるのではないか。 プログラム前半では、ベートーヴェンとメンデルスゾーンを組み合わせる。ベートーヴェンはソナタ第1番、そして創作主題による32の変奏曲。コンラート・グラーフを弾いたCD録音では、走馬灯が倍速で回転するような鮮烈な品だ。西洋人が作り出したアジアの物語世界を、アジアの指揮者とオーケストラが再現するおもしろさがある。ブリテンのあまり演奏されない曲を聴けるという意味でも貴重な機会だ。 ブラームスのピアノ協奏曲第1番では、カーチュンの強い要望にこたえて変奏曲を聴かせていた。そして、「無言歌集」から6曲。一転して抒情がむんむんと薫り立つことだろう。 プログラム前半は、まだどのピアノで弾くか決まっていない。候補はショパンを弾く予定のプレイエル、そして先日ホールに導入されたばかりのヴィンテージ・ベーゼンドルファー(1909年製)の2つ。リッテル自身が来日後、試し弾きをして決定するという。当日のお楽しみがまた増えた。6/25(水)19:00 TOPPANホール問 TOPPANホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.comサー・スティーヴン・ハフが独奏を務める。今や大家と呼ぶべきトップクラスの実力者が、異例のスケールを誇るピアノ協奏曲にどう挑むのか。カーチュンと日本フィルの勢いも加わって、かつてない鮮烈なブラームスを聴けるのではないだろうか。カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団当代屈指の名ピアニストと挑むブラームスの大曲トマシュ・リッテル(フォルテピアノ)古楽界の新鋭がついにTOPPANホールに!

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