eぶらあぼ 2025.5月号
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ゲオルク・フリードリヒ・ハースの音楽5/22(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール出演/ジョナサン・ストックハンマー(指揮)、ホルンロー・モダン・アルプホルン・カルテット、読売日本交響楽団2025年度 武満徹作曲賞本選演奏会審査員:ゲオルク・フリードリヒ・ハース出演/阿部加奈子(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団5/25(日)15:00 東京オペラシティ コンサートホール□ 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999https://www.operacity.jpホルンロー・モダン・アルプホルン・カルテット ©Muriel Steinerジョナサン・ストックハンマー ©Marco Borggreveの指揮者、ジョナサン・ストックハンマーと、近現代のレパートリーに精通する読売日本交響楽団の共演ゆえに、ハイレベルな演奏が期待できるだろう。 ハースの音楽は一聴すると複雑で難解なものだと思われがちだが、意識を集中して、耳がその響きに慣れてくると、身体を包み込む音響の美しいグラデーションに気がつくのである。2011年に作曲されたオーケストラのための「... e finisci già?」(イタリア語で“それで、もうおしまい?”の意味)は、そうしたハースのエクリチュールを堪能できる作品のひとつである。モーツァルトのホルン協奏曲第1番 K.412の未完成の断片に着想を得たこの作品は、ナチュラルホルンで演奏可能な自然倍音が作品の核となっている。こうしたコンセプトからもわかるように、ハースが目指しているものは聴衆を圧倒する難解さではなく、人間が古来愛してきたピュアな響きであり、それを追い求めるツールとして微分音が用いられているのである。 ホルンロー・モダン・アルプホルン・カルテット(HMAQ)のために書かれた、4本のアルプホルンとオーケストラのための「コンチェルト・グロッソ第1番」は、ハースのそうした美意識がもっとも顕著に現れた作品だろう。2014年にHMAQとスザンナ・マルッキ指揮バイエルン放送交響楽団によって世界初演された本作は、その後世界各地で演奏され、ハースのもっとも成功した作品のひとつとなっている。アルプホルンは、スイスをはじめとするヨーロッパの山岳地帯で演奏される民俗楽器で、ナチュラルホルンと同様に自然倍音列しか演奏できないが、奏者のアンブシュアが作り出す変幻自在な音程は、合奏において究極の調和をもたらすのである。ハースはアルプホルンのこうした特質に着目し、バロック音楽のコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)の様式に当てはめながら、4本のアルプホルンの素朴でピュアなサウンドと、オーケストラの合理化された機能的なサウンドを対比させた。両者はときにコントラストを際立たせ、ときに互いを補って拡張しながら、聴き手に新たな音響体験を提供するのである。 今回の公演では、ハースの作品と併せて、メンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」とマーラーの交響曲第10番の第1楽章〈アダージョ〉も演奏される。ハースはメンデルスゾーンの音楽を好んでおり、この作曲家へのオマージュとして「夏の夜に於ける夢」(2009)なる作品も書いている。マーラーの交響曲第10番は、19世紀ロマン派の調性音楽の到達点であり、マーラーとハースを続けて聴くことは、ドイツ・オーストリアの音楽史の連続性を肌で感じる機会になる。コンテンポラリー・ミュージックに少しでも関心がある人は、日本におけるハース受容の重要な1ページとなるであろう演奏会に、ぜひとも立ち会ってほしい。31Information〈コンポージアム2025〉ゲオルク・フリードリヒ・ハース トークセッション5/21(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール出演/ゲオルク・フリードリヒ・ハース、沼野雄司(聞き手)自然倍音列の純粋さを追い求めてアルプホルン4本とオーケストラの共演!

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