112クリスチャン・ツィメルマンの新譜は室内楽で、ブラームスのピアノ四重奏曲第2番・3番。若手プレイヤーを抜擢し、ポーランドのノーヴァク(ヴァイオリン)とブドニク(ヴィオラ)、そして日本人のチェリスト岡本侑也との共演である。岡本は昨年1月、エベーヌ弦楽四重奏団の正式メンバーとなり、今最も期待される奏者。ブラームスが最初に手がけた第3番はただならぬ緊張感を漂わせ、緩徐楽章はふくよかで温かみのある音楽となり、ツィメルマンの深い包容力が感じられる。第2番はエレガントで、このアンサンブルの特性が非常に洗練された美にあると気付かせてくれる。 (飯田有抄)表題作である「Crypte」(木下正道)は地下納骨堂の意。5曲からなる大作で、構成も骨太だ。この静と動のせめぎあいを、土橋は気迫と緊張感を持って血肉化している。アルバムはこれを核に、渡辺裕紀子の5つの多重録音作を導きの糸にしてシンメトリカルに構成されている。興味深いのは木下以外の作曲家がみんな、音の滲みや音程の揺れ、歪みに着目している点だ。そうしたアイディアの一つひとつを、土橋は繊細かつ注意深い手つきで音へと変えていく。現実が少しずつ異界へと移行し、深い闇のドラマを見た後、不思議な道を通ってこの世に戻ってきたような、夢の旅路を体験させてくれる一枚。(江藤光紀)94歳の名ヴァイオリニスト・小林武史が2003年に録音した小品集の復刻。小林といえば豊麗な美音で有名だが、最初の「タイスの瞑想曲」から、甘美な音にうっとりとさせられる。團伊玖磨「ファンタジア」は、彼に捧げられたピアノ伴奏の曲だが、小林自身の手で無伴奏用に編曲された。技巧的で即興性もあり、高音が祈りのように美しい。ヤナーチェク「ドゥムカ」は、民謡調のきれいなメロディの中に屈折があり、そこここに激しい情念が見え隠れする。7曲あるクライスラーはどれもいい。「ロマンツェ」は揺れる心が歌われ、中間部の逡巡と憧れの気持ちがせつない。ヴァイオリンの美音を聴くならコレだ。(横原千史)ベルリン・フィルとウィーン・フィルによるトップ奏者を中心にした凄腕揃いのブラス・アンサンブル。それをムーティが指揮。たまらなくゴージャスなイタリア音楽アルバムだ。この指揮者らしいきりっと引き締まったアンサンブルで、推進力をもって突き進む。そして、その音色のじつに豊かなこと。《ナブッコ》序曲の重厚感、《アルジェのイタリア女》序曲や《アイーダ》よりバレエ音楽といった曲の細やかな動きも軽やか、かつ華麗にこなしつつ、《ウィリアム・テル》序曲の嵐の場面や「ローマの祭り」冒頭曲での音響スペクタクルには目を見張るばかり。 (鈴木淳史)クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ)マリア・ノーヴァク(ヴァイオリン)カタージナ・ブドニク(ヴィオラ)岡本侑也(チェロ)土橋庸人(ギター)小林武史(ヴァイオリン)パヴォル・コヴァーチ(ピアノ)SUPREME CLASSICS/ナクソス・ジャパンSMGG001 ¥オープン価格ブラームス:ピアノ四重奏曲第3番、同第2番ユニバーサル ミュージックUCCG-45120 ¥3300(税込)渡辺裕紀子:Quasi Senza Tempo #1-5/渡辺俊哉:ギター・ソロのための「複数の声」/山本裕之:ギターのための「揺らめくサラバンド」/木下正道:ギター独奏のための「Crypte XV」/夏田昌和:ギター・ソロのための「木漏れ陽」コジマ録音ALM-143 ¥3300(税込)マスネ(マルシック編):タイスの瞑想曲/團伊玖磨(小林武史編):ファンタジア(無伴奏版)/ラフマニノフ:ヴォカリーズ/ヤナーチェク:ドゥムカ/ハチャトゥリアン:ノクターン/山田耕筰:のばら/クライスラー:ロマンツェ 他ナミ・レコードWWCC-8028 ¥3300(税込)ヴェルディ:歌劇《ナブッコ》序曲(M.ヘフス編)、歌劇《アイーダ》よりバレエ音楽(P.J.ローレンス編)/ロッシーニ:歌劇《アルジェのイタリア女》序曲、歌劇《ウィリアム・テル》序曲(以上ヘフス編)/レスピーギ(ローレンス編):交響詩「ローマの祭り」より〈チルチェンセス〉 他リッカルド・ムーティ(指揮)フィルハーモニック・ブラスCDブラームス:ピアノ四重奏曲 第2番&第3番CDCDSACDCrypte/土橋庸人Fantasia/小林武史&パヴォル・コヴァーチ/クリスチャン・ツィメルマンイタリアーナ!/リッカルド・ムーティ&フィルハーモニック・ブラス
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