1102023~24年に行われた尾高忠明と大阪フィルによるメンデルスゾーン・ツィクルスのライブ録音。力みなく、響きをきちっと整理していく尾高のタクトが、これらの交響曲に必須な軽快さ、明快さをよく引き出している。なかでも、第2番「讃歌」は、明晰にして柔らかい響きを全体に及ぼし、断絶しがちな器楽のみの第1部とカンタータの第2部に一体感をもたらす。合唱および独唱も雄弁だ。第5番「宗教改革」終楽章のフガートの処理もしなやかにして峻厳、暖かいコーダを導く。第3番「スコットランド」の引き締まった運びのなかにふっと漂う陰影感もいい。 (鈴木淳史)1980年代後半から90年代にかけてイ・ムジチ合奏団のコンサートマスターを務めたイタリアの名奏者(現在日本在住)による、初のバッハ無伴奏曲アルバム。本盤には全6曲中の前半3曲が収録されている。アゴスティーニのヴァイオリンは、とにかく艶やかで温かい。しかも全体に歌を感じさせる点がイタリア人ならでは。ゆえにここで展開されるのは、陽性で豊潤なバッハ演奏だ。また音楽が終始動的で駆動力抜群。中でもパルティータ第1番第2楽章のドゥーブル等の快速部分の鮮やかさには耳を奪われる。こうした個性的なバッハの無伴奏も聴いていて愉しい。(柴田克彦)中国の名手たちによる、変則的な三重奏編成の稀少なオリジナル曲集。ドイツ伝統の書法にこだわったナウマンとフックスによる、それぞれ1863年と1921年の作品だが、いずれもブラームス的な作風を土台に、陰のある和声や旋律美が光る佳品。上海から欧米で確かな研鑽とキャリアを重ねた3人がとにかく上手い。ヨーロピアンで深みある音色と歌、バランスもよく美しい。ヴィオラは底鳴りする美音でチェロの役割も果たし、他2人も十全の演奏で隙がない。ショスタコーヴィチの誠実だがしゃれたセンスもいい。彼らでCDを作った理由も、秘曲の価値も伝わる、うれしい発見の一枚。(林 昌英)ベルトラン・シャマユは「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」への出演やNHK交響楽団との共演などで何度も来日し、日本でも多くのファンをもつフランスのピアニスト。透明感のある輝きを放つ美音、語り掛けるような演奏はかねてからフランス人作曲家の作品で真価を発揮してきた。そんな彼の新譜はラヴェルの編曲作品や彼へのオマージュによって生まれた楽曲をあつめたもの。“歌”や“踊り”を意識させられるプログラミングで、ラヴェルの魅力はもちろんだが、シャマユの演奏における歌いまわしの美しさ、リズム感の巧みさといったものも存分に感じることができる。 (長井進之介)尾高忠明(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団盛田麻央 隠岐彩夏(以上ソプラノ) 吉田浩之(テノール)収録:2023年6月、ザ・シンフォニーホール(ライブ) 他オクタヴィア・レコードOVCL-00831(3枚組) ¥8800(税込)フェデリコ・アゴスティーニ(ヴァイオリン)ジェン・ウェイミン(ヴァイオリン)リウ・ニアン(ヴィオラ)リー・ツォン(ピアノ)ベルトラン・シャマユ(ピアノ)ERATO/ワーナーミュージック・ジャパン2173.260123 ¥オープン価格J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番、同第2番、パルティータ第1番メンデルスゾーン:交響曲第1番〜第5番「宗教改革」、序曲「静かな海と楽しい航海」、同「ルイ・ブラス」、同「フィンガルの洞窟」マイスター・ミュージックMM-4540 ¥3520(税込)ナウマン:ピアノ三重奏曲/フックス:ピアノ三重奏曲/ショスタコーヴィチ/アトフミャン(リウ・ニアン編):5つの小品コジマ録音ALM-9279 ¥3300(税込)ラヴェル:「3つのシャンソン」より〈3羽の美しい極楽鳥〉(シャマユ編)、ダフニスの優雅で軽やかな踊り/ニン:「一連のワルツ」より〈ラヴェルへのメッセージ〉/モンサルバーチェ:モーリス・ラヴェルへの哀歌/オネゲル:「3つの小品」より〈ラヴェル讃〉 他SACDCDCDCDJ.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ BWV1001-1003/フェデリコ・アゴスティーニメンデルスゾーン:交響曲全集/尾高忠明&大阪フィル三人行 Quest for Three/ジェン・ウェイミン&リウ・ニアン&リー・ツォンラヴェル・フラグメンツ/ベルトラン・シャマユ
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