eぶらあぼ 2025.4月号
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尾高忠明 ©上野隆文舘野 泉 ©Akira Muto左より:矢部達哉 ©大窪道治/広田智之 ©Ayane Shindo/トリトン晴れた海のオーケストラ ©大窪道治64文:林 昌英文:山田治生 4月の東京フィル定期演奏会は、桂冠指揮者の尾高忠明が登壇。彼と関わりの深い人と作品が集まる、特別な雰囲気の演奏会になりそうだ。 まず忠明の兄、尾高惇忠のピアノ連弾曲「音の旅」のオーケストラ版より3曲。心温まる平明なメロディで演奏機会も多い、子どものためのピアノ名品集だ。意外にも忠明がこの版を取り上げるのは初めてとのことで、心洗われる時間になりそう。 東京フィル初の欧州演奏旅行は1984年、指揮者が尾高忠明、共演ピアニストは舘野泉だったという。その後世界的に活躍し続けた両者が、舘野の演奏生活65周年の今年、同楽団定期で共演する。舘野はこの20年は「左手のピアニスト」としてその世界を開拓し、新作も数多く献呈された、レジェンドというべき存在。その彼がラヴェル生誕150年の記念年に、左手作品の代表作「左手のためのピアノ協奏曲」を、長年の盟友とともに奏でる。聴き逃がす手はない。 「トリトン晴れた海のオーケストラ」は、指揮者のいないオーケストラ。コンサートマスターの矢部達哉がリードし、室内楽的な親密さでシンフォニーを演奏する。第一生命ホールの座付きとして2015年に結成され、18年から21年にかけて、ベートーヴェンの全交響曲を演奏。指揮者なしの「第九」がNHKで放送され、大きな話題となった。 現在、2度目となるベートーヴェン・ツィクルスに取り組んでいる。第17回となる6月28日の演奏会では、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」を取り上げる。名曲中の名曲であり、メンバーの誰もが何度も演奏したことがあるに違いない作品を、矢部と約40名のメンバーたちがどのように緻密に作り上げていくのか注目である。 演奏会の前半はリヒャルト・シュトラウス・プログラム。彼の最後のオペラであ 同じく必聴なのが、尾高の振るエルガー、しかも交響曲第3番。創作への熱意の衰えていた晩年、多くの仲間や音楽家たちの協力を得て意欲新たに取り組んだ大作。残念ながら完成は叶わなかったが、残されたスケッチからアンソニー・ペインが1997年に補筆完成、98年に初演され、以来この版の演奏が定着している。イギリス音楽の第一人者である尾高は、本作も2004年の日本初演をはじめ各る《カプリッチョ》の序曲は、弦楽六重奏の隠れた人気レパートリー。ロココ的な優雅さが感じられる作曲者晩年の美しい室内楽曲である。国内オーケストラの主力メンバーとしても活躍する矢部、丹羽紗絵、篠﨑友美、村田恵子、清水詩織、山本裕康の6人がなごやかなアン6/28(土)14:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 https://www.triton-arts.net地で演奏し続け、誰よりもその真価を知悉する。円熟の境地にある名匠の指揮で、新たなエルガーのサウンドに浸れる喜びはこの上なく大きい。サンブルを聴かせてくれるだろう。そして、晴れオケのメンバーである広田智之がオーボエ協奏曲を吹く。同じくR.シュトラウス晩年の作品であり、これも過去に目を向けた優美な音楽。ベテランの広田が結成10年の晴れオケとどんな演奏を繰り広げるのか楽しみである。第1014回 サントリー定期シリーズ 4/24(木)19:00 サントリーホール第169回 東京オペラシティ定期シリーズ4/25(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール第1015回 オーチャード定期演奏会4/27(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール問 東京フィルチケットサービス03-5353-9522 https://www.tpo.or.jp尾高忠明(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団追憶と継承――マエストロの音楽への想いを繋ぐ三つの物語トリトン晴れた海のオーケストラ 第17回演奏会 ベートーヴェン・ツィクルスV結成10周年は渾身の「運命」でスタート

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