ジョナサン・ノット ©T.Tairadate/TSO左より:沼尻竜典/宮里直樹 ©FUKAYA Yoshinobu/auraY2/迫田美帆49文:岸 純信(オペラ研究家)文:飯尾洋一 2026年3月に東京交響楽団の音楽監督を退任するジョナサン・ノット。任期満了が近づくにつれて、このコンビの一回一回の演奏が一段と貴重なものに思えてくる。4月12日の東京オペラシティシリーズでは、ヘルムート・ラッヘンマンの「マイ・メロディーズ~8本のホルンと管弦楽のために」、バリトンのロビン・アダムスによるマーラーの「子供の魔法の角笛」抜粋、同じくマーラーの「花の章」という意欲的なプログラムが組まれた。 現代のドイツを代表する作曲家ラッヘンマンの「マイ・メロディーズ」は、35分ほどの大作。2016年から18年にかけて作曲された後、2度にわたり改訂され、23年改訂版がバイエルン放送交響楽団により初演された近作である。「マイ・メロディーズ」とタイトルはかわいい雰囲気だが、もちろん中身はモダンだ。ラッヘンマンならではの特殊奏法もふんだんに用いられる。8人も チェコのドヴォルザークにはよく知られた名曲が多いが、中でも交響曲「新世界より」ほど愛される作品もないだろう。とりわけ、第2楽章は、日本でも「家路」というニックネームで知られるが、そこで聴こえるイングリッシュホルンの鄙びた音色は、田舎の牧歌的な情景をまざまざと連想させるもの。ゆっくりと陽が落ちるかのような音のリリシズムが、初めて聴く人の耳にも自然に染みわたり、心をほぐしてくれるのだ。 来る6月、名指揮者・沼尻竜典が東京都交響楽団との共演で届けるコンサート、東京文化会館主催の《響の森》Vol.56では、この「新世界より」にまずは注目。楽曲の鋭い解釈で光るマエストロ沼尻が、この名作の抒情性をどこまで引き出してくれるか、じっくりと聴き入りたい。 一方、この日の前半では、プッチーニのオペラ3作から人気の名曲集が披露される。歌い手は、輝かしい高音域をのホルン・ソロが求められ、上間善之、加藤智浩、白井有琳、藤田麻理絵、松坂隼、鈴木優、庄司雄大、伴野涼介といった名手たちが一堂に会する。これまで耳にしたことのない刺激的なサウンドが待っている。 マーラーの「子供の魔法の角笛」では、ベルン市立劇場やジュネーヴ大劇場、シュトゥットガルト州立歌劇場などで活躍するバリトン、ロビン・アダムスの歌唱に期待し凛々と響かせるテノール・宮里直樹と、清流のようにスムーズな歌いぶりで、ドラマティックな音楽もやすやすと声で制覇するソプラノ・迫田美帆の二人。《蝶々夫人》の愛の二重唱、《トゥーランドット》の憐れな女奴隷のアリア〈ご主人様、お聞きください〉や、王子のヒ6/8(日)14:00 東京文化会館問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 https://www.t-bunka.jpたい。おしまいはマーラーの「花の章」。「巨人」から削られた短い楽章でしめくくるという、かなり意外な構成だ。ロイックな〈誰も寝てはならぬ〉に加えて、青春のオペラ《ラ・ボエーム》のアリア2曲と二重唱〈愛らしい乙女よ〉など名場面が目白押しである。初夏の爽やかな風に吹かれながら気軽に足を運べる演奏会として、幅広い世代にお勧めしたい。東京オペラシティシリーズ 第144回4/12(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 https://tokyosymphony.jpジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団センス光るプログラミングが誘う未知なる体験東京文化会館 《響の森》 Vol.56 オペラとシンフォニーへの誘い躍進続ける二人の歌い手を迎え魅せる名曲の数々
元のページ ../index.html#52