©Lyodoh Kaneko46ミシェル・ダルベルト(ピアノ)取材・文:青澤隆明 パリ生まれのピアニスト、ミシェル・ダルベルトが来る6月で70歳を迎える。今年はクララ・ハスキル国際コンクール優勝から50周年の節目ともなる。初来日からは昨年で40周年。 「たしかに多くのことが変わりましたが、ただ、音楽家の仕事は同じで、核となる部分は変わらない。作曲家の同じ譜面に取り組む。それは戦前からも、19世紀からも変わっていないことです」とダルベルトは言う。 「本を読むのと似て、テクストは変わりませんが、その意味は変容します。演奏者は読み手であり、解釈者である。私が意味を見出すところを、人々に理解してもらうために、最善の方法を探り続けています」 記念すべき年のリサイタルは、ブラームス、ラヴェル、リストの難曲を据えた壮大なプログラム。“ヴィルトゥオーゾ”と言えば、超絶技巧の代名詞と思われがちだが、語源的には美徳を備えた人といった意味をもつ。「ヴィルトゥオーゾであるとは、必ずしも大きな音で速く弾くということではないのです」とダルベルトも言う。「2つや3つの音を同時に弾くほうが、10や12の音を弾くよりも難しい」と考える彼は、昨夏録音した新譜『VIRTUS』にモーツァルトの「易しいソナタ」K.545を収録したほどである。 「今回リサイタルで演奏する作品には、異なる種類の難しさがあります。ブラームスの『パガニーニの主題による変奏曲』は超絶的な難曲ですし、なによりも演奏するのにエネルギーが要ります。弾き終えると、手がへとへとです。ラヴェルの『夜のガスパール』も難曲ですが、この種の疲労感はありません。『《ノルマ》の回想』はリストが書いたもっとも難しいトランスクリプションのひとつ。これも手の負担はかなり大きいけれど、愉しい曲です。もとになったベッリーニのオペラの物語はとても現代的な葛藤を描いていますしね」 幕開けにはフォーレのバラード嬰ヘ長調op.19、それからシューマンの「色とりどりの小品」op.99の〈5つの音楽帳〉を採り上げる。 「フォーレの没後100年となる昨年は来日がなかったので、ここで弾くのがよいと思ったのです。シューマンの小品はあまり知られていませんが、ピュアな天才が感じられる素晴らしい作品です。最初の曲はブラームスも変奏曲の主題に用いた美しい旋律をもちますし、第3番は私のお気に入りで、弾いていると物語を語っているように感じる。フォーレとシューマンには非常にポリフォニックな作品という繋がりがあります。そして、もちろんブラームスも」 フォーレもラヴェルも得意のレパートリーだが、かのペルルミュテールに師事したパリ国立高等音楽院時代には、ショパンに夢中になることも、フランス音楽をとくに探求することもなかった。モーツァルト、シューマン、リストに真摯に取り組み、ブレンデルのパリでのリサイタルやリヒテルのレコーディングに触れて、当時フランスではまず弾かれていなかったシューベルトに没頭した。「それが、DENONレーベルで14枚のCDを録音するまでに結実したのです。まだ誰も成し遂げていなかったこの大仕事をおえて、いわゆる母国の音楽を演奏するときがきたと思ったのです」とダルベルトは微笑む。じっくりと歩んできた人なのだ。 これからのプロジェクトについてたずねると、「できるかぎり健康なままでいること。いまのようによいバランスで、演奏会と教育活動を続けていくこと」と、とてもナチュラルに言った。来日40周年記念 ミシェル・ダルベルト ピアノ・リサイタル5/13(火)19:00 すみだトリフォニーホール問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 https://www.pacific-concert.co.jpInterview節目に問う“ヴィルトゥオーゾ”の真の在り方
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