Dr. Clive Brown4518〜19世紀の歴史的演奏研究の世界的権威であるクライヴ・ブラウン博士が昨年11月に初来日しました。ケント・ナガノ&コンチェルト・ケルンなどと進めてきた《指環》プロジェクトや、佐藤俊介(ヴァイオリン)が参加したブラームスの協奏曲ほか、ピリオド楽器による演奏を試みる多くの音楽家と協働しています。博士が語る研究の成果は「目からウロコ」のお話ばかり。ここでは、超ロング・インタビューのごく一部をお届けします。――ワーグナーが活躍した時代、楽器は現代とどのくらい異なっていたのしょうか? 弦楽器は現代のものと基本的に同じものでしたが、ガット弦を使用していました。一方、木管楽器や金管楽器の問題はより複雑で、特に後者は現代のオーケストラでは弦楽器よりもはるかにパワフルになっているので、当時の音響バランスを再現するために当時使われていた管楽器を見つける必要があります。研究も進み、オリジナルよりもコピーの方が当時の音色を再現できることも稀でありません。――弦楽器や管楽器の演奏法はどのように違っていましたか? 弦楽器は19世紀の終わりまでヴィブラートをほとんど使わず、代わりにポルタメントを多用していました。ロジャー・ノリントンはワーグナー演奏においてヴィブラートを使わない点で正しかったのですが、装飾としてのヴィブラートは存在していたのです。オーケストラにおけるヴィブラートの使用増加は19世紀の終わり頃に起こり、若い世代が徐々に取り入れていきました。当初は、感情表現の一要素として時折用いられるに留まっていましたが、20世紀に入ると美しい音色に不可欠な要素とされ、連続的なヴィブラートに取って代わられたのです。 録音が残っている時代になると、その変遷を聴覚的に追うことができます。20世紀初頭のヴィブラートは速くタイトで不規則でしたが、次第に遅く幅広いものになっていきました。管楽器ではクラリネットを除くほぼすべてがヴィブラートを取り入れました。1920〜30年代、ジャズの人気が高まり、クラシック音楽の文化的優位性が脅かされると、多くの演奏家がジャズ風の奏法を避けるようになりました。ポルタメントも同様にジャズとの類似が問題視され、1930〜40年代以降、クラシック音楽での使用は急速に減ったのです。 時代考証演奏法(HIP)の研究は、素晴らしい発見の旅でした。歴史的な証拠から、作曲家の意図を損なうことなく楽譜に付け加えることのできる、あるいは変更することのできるさまざまな要素が明らかになってきました。“歴史的に正しい演奏”は存在し得ませんが、特定のレパートリーにおいてその時代にどのような表現手段が期待されていたか、そしてそれらが楽譜とどのように関連しているかを考えて演奏するのが醍醐味です。古楽とその先と Vol.13全文はこちらからぶらあぼONLINE Selection「古楽とその先と」〜歴史的に正しい演奏は存在するのか?〜クライヴ・ブラウン博士が語るが語るクライヴ・ブラウン博士古典派&ロマン派の演奏法古典派&ロマン派の演奏法
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