eぶらあぼ 2025.4月号
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43めりこむ演奏家もプロアマ問わず多数現れました。 そして、「作品に込めたものは体制批判だけ? 個人的な恋愛感情のメッセージも多い」「裏の意図にこだわらずとも、音楽自体がカッコいい!」といった、新しい研究成果による作曲家像の変化、さらには背景にとらわれず柔軟に接することも可能になりました。 面倒な話はこの辺にして、曲の紹介へ。まずは、今年生誕200年のヨハン・シュトラウスⅡ世のポルカ「観光列車」はいかがでしょう? ただし、ショスタコーヴィチ編曲版です。劇場でオペレッタを上演する際にこの曲が必要になり、楽譜を取り寄せる時間もないのですぐに編曲してほしい、という依頼に応えて、なんと一晩で書き上げたと伝えられます。ムリな注文をサラリとこなしたばかりか、オーケストレーションやハーモニーの工夫(突然の転調も!)など遊びも入れて個性を刻印した、見事な仕事ぶり。 編曲の速さで言えば、とある指揮者宅で「いまから聴かせる曲をこの場で1時間以内に編曲できるか」と挑まれ、わずか45分で管弦楽編曲を完了したという「タヒチ・トロット(ふたりでお茶を)」も有名です。“ムチャぶり”に燃えるタイプだったようですね。 若い頃には無声映画にピアノ実演で音楽を付ける仕事に携わり、その後は映画音楽も多数作曲、バレエ音楽や舞台用音楽、オペレッタなど、誰でも楽しめる気の利いた楽曲を多数残しています。「ジャズ組曲第2番(舞台管弦楽のための組曲)」の「ワルツ第2番」はみなさんご存じの名旋律。映画『アイズ・ワイド・シャット』をはじめ、多くの映像作品で使われて広く知られました。 ショスタコーヴィチを代表する作品群といえば、やはり交響曲と弦楽四重奏曲。いずれも15曲ずつで、ショスタコ愛好家にとって「15」という数字は特別なものになっています(?!) 15の交響曲は、1925年にわずか18歳(19歳になる数ヵ月前)で完成させて瞬く間に世界中で演奏された第1番から、不思議な引用と透明感にあふれた謎の多い1971年完成の第15番まで、作曲活動の全般にわたって作られています。15曲を辿ることで、ショスタコーヴィチの人生を、さらにはソヴィエトの政治体制や戦争といった歴史をも(ある程度は)知ることにつながる、というのは言い過ぎでしょうか。 さらに強調したいのは、そういった背景とは関係なく、圧倒的なオーケストラの音を聴くよろこび、あえていえば“音響の快楽”を堪能できるのが、ショスタコーヴィチの交響曲の魅力であること。例えば、要所での打楽器や金管楽器の炸裂ぶりは格別で、演奏者の心を鷲づかみにしているとききます。全楽器が一体となったフルボリュームの大音響は、聴衆も奏者もある種のトランス状態に陥るほどです。 その対となる特徴が、弱音の表現の凄まじさ。見てはいけない闇を覗いてしまったような深淵、身も世もない孤独、もしくは苦難を経たわずかな救いとしてのソロの歌など。弱音の多彩な表現こそは、シンフォニーに限らずショスタコーヴィチ作品の真髄といえるでしょう。のけぞるような大音響を浴びた後、静かな空間に繊細で真摯な音色が響き渡る体験は、コンサートホールでオーケストラを聴く醍醐味そのものです。まずは聴きやすいところから……“炸裂”と“静寂”――オーケストラの醍醐味を堪能!続きはぶらあぼONLINEで!本文で紹介されている楽曲の音源とあわせて楽しめます♪18歳頃のショスタコーヴィチ(1925年)

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