eぶらあぼ 2025.4月号
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《フィガロの結婚》10/5(日)14:00、10/7(火)15:00、10/9(木)18:00、10/11(土)14:00、10/12(日)14:00《ばらの騎士》 10/20(月)15:00、10/22(水)15:00、10/24(金)15:00、10/26(日)14:00東京文化会館 4/18(金)発売□ NBSチケットセンター03-3791-8888 https://www.nbs.or.jp※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。フィリップ・ジョルダン ©Peter Mayr《ばらの騎士》 ©Wiener Staatsoper / Michael Poehn《フィガロの結婚》©Wiener Staatsoper / Michael Poehnベルトラン・ド・ビリー ©Marco Borggreve伝統と格式を誇る歌劇場の引越し公演、看板演目2本立てで9年ぶりに実現文:森岡実穂 ウィーン国立歌劇場が9年ぶりに日本にやってくる。演目がまた素晴らしい。オーストリアを代表する二人の作曲家の名作、モーツァルト《フィガロの結婚》とリヒャルト・シュトラウス《ばらの騎士》が並ぶのだ。モーツァルトを敬愛するシュトラウスの書いた《ばら》は、年上の貴婦人と十代の青年の危険な恋、彼の女装など《フィガロ》へのオマージュにみちており、二作は姉妹のような作品だ。今回はこの二つを同時期に現代最高の上演で楽しめる貴重な機会となる。 ウィーンの《ばらの騎士》と言えば、1994年カルロス・クライバー指揮での来日公演が「伝説」となっているが、今回の公演も同じオットー・シェンク演出だ。1968年初演の古典演出ながら、2010年に本人が「再演」しあらためて細部まで血を通わせたことで、演出としての鮮度も保っている。「音楽と台本が実に多くのことを描いているので、それを再現するだけでいい」と語る通りのシェンクの舞台は、まさに《ばら》の理想形。この先一生の《ばら》体験の土台となる劇場経験ができるだろう。 本作を指揮するのは2020年から今シーズン末まで音楽監督を務めるフィリップ・ジョルダン。ウィーンでは同作の指揮だけでも16回を数える。「音の響きにおいて《ばらの騎士》は、まったくモーツァルトの精神によるもの」と語り、慣習に引きずられず作曲家たちが目指したであろう透明性や軽やかさを求めようとする姿勢は、現代的でありつつシェンクと同じ方向を向いている。 モーツァルトのオペラは、演劇におけるシェイクスピア作品のようなもので、常に最前線の演出家たちが新しい視点で読みなおす対象だ。ウィーンが現在《フィガロの結婚》を任せているのは鬼才バリー・コ34スキー。「《フィガロ》における愛は動詞であり、常に動き、変化している」と語るコスキーは、家父長制・階級社会の権力勾配の下で登場人物たちの愛と欲望が刻々と変化するさまを、音楽のエネルギーと緊密に結びつけながら現代的なシャープさで描いていく。オペラの醍醐味である数々の重唱では、歌手たちは曲そのものに仕込まれた衝撃の瞬間を演技により鮮やかに色付け、レチタティーヴォでは、フォルテピアノが絶妙なタイミングで言葉の応酬に勢いを与える。おおいに演出との協働が求められる本作の指揮を執るのは、1997年以来の貢献が評価され、昨年当歌劇場の名誉会員ともなった、劇場・観客ともに信頼厚いベルトラン・ド・ビリーという万全の布陣である。 ちなみに、ウィーン・フィルは国立歌劇場管弦楽団の精鋭によって構成されている団体だ。公式サイトでも「コンサートで磨かれた芸術的完成度の高さが、オペラ公演の芸術的水準にも好影響を及ぼしている」とあるように、多くのメンバーが両者を行き来することで、歌劇場管弦楽団は音楽的洗練と歌心を並行して磨き上げていく。カミラ・ニールンド、サマンサ・ハンキー、アンドレ・シュエンほか、今聴きたい歌手陣を支えるオーケストラの芳醇な音色はこの歌劇場の宝石。この秋、ぜひこうしたすべてを体験してほしい。ウィーン国立歌劇場2025年日本公演《フィガロの結婚》《ばらの騎士》

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