eぶらあぼ 2025.4月号
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Pierre Bleuse/アンサンブル・アンテルコンタンポラン音楽監督、指揮生誕100年、作曲家ブーレーズを隅々まで知りつくす旅へ取材・文:八木宏之©Sandrine Expilly フランスの新しい世代を代表する指揮者のひとり、ピエール・ブルーズが4月に待望の再来日を果たす。昨年3月、東京交響楽団と神戸市室内管弦楽団の指揮台に立ち、サン=サーンスやラヴェル、アイヴズといったレパートリーで日本での指揮者デビューを成功させた。ブルーズはそれ以前にも、トゥールーズ室内管弦楽団のコンサートマスターとして来日経験がある。指揮者としては2度目となる今回の来日では、2023/24シーズンから音楽監督を務めるアンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)とともに東京・春・音楽祭に出演し、ピエール・ブーレーズの生誕100年を記念したプログラムを披露する。1976年にブーレーズによって創設されたEICにとって、2025年の「ブーレーズ・イヤー」は特別な一年だ。 「亡くなって9年が経った今でも、フランスの音楽界におけるブーレーズの存在はとても大きなものです。EICの活動にも、彼の精神は変わることなく息づいています。ブーレーズの作品は古典としてレパートリーに定着しつつありますし、先日フィルハーモニー・ド・パリで開催された生誕100年を記念したコンサートでの、彼の音楽に対する聴衆の反応もとても熱心なものでした」 東京春祭でブルーズが指揮をするのは、ブーレーズの「シュル・アンシーズ」と「カミングスは詩人である」に、ミカエル・ジャレルの「アソナンスIVb」と新作「常に最後の言葉を持つのは天のようだ」(日本初演)を組み合わせたプログラム(4/9)。そのほかにEICメンバーによる公演で、「12のノタシオン」や「二重の影の対話」をはじめとするブーレーズの小編成の作品を、指揮者なしで演奏するプログラムも予定されている(4/10)。 「今回の日本公演では、作曲家ブーレーズを隅々まで知っていただけるように、様々な編成の作品を演奏します。どのような編成にも対応できるEICの柔軟な音楽性をお楽しみいただけるでしょう。『シュル・アンシーズ』はEICがもっとも得意とする作品のひとつで、奏者が自らの限界を超えていくような音28楽です。『カミングスは詩人である』は合唱を伴うため演奏機会はそう多くありませんが、彼の音楽の詩的な側面に触れることができます。  またブーレーズだけでなく、スイスの作曲家、ミカエル・ジャレルの作品も取り上げます。生涯にわたって新しいことに挑戦し続けたブーレーズを讃えるコンサートでは、現代の作曲家の作品も演奏すべきだと思ったからです。この二人には音楽の明晰さやオーケストレーションの緻密さに共通点があり、ブーレーズはジャレルの才能を認めて、そのキャリアを後押ししました。今回が日本初演となる新作は、ブーレーズもインスピレーションを受けた詩人、ルネ・シャールのテキストに基づく作品で、『カミングスは詩人である』とほぼ同じ編成で書かれています。ジャレルは私にとって“音楽の詩人”であり、日本のお客様に彼の作品を聴いていただけることをとても嬉しく思います」 フランスのみならず、ヨーロッパのコンテンポラリー・ミュージックの発展に多大な貢献を果たしてきたEICは、来年2026年に創設50周年を迎える。1970年代から大きく変化したクラシック音楽シーンのなかで、次の半世紀、ブルーズとEICはどのような役割を担っていくのだろうか。 「今日、クラシック音楽のコンサートは博物館のようなものになり、どの国のホールやオーケストラも名曲中心の似通ったプログラムを提供しています。クラシック音楽の世界では、すでに知っている作品を聴きに行くことが当たり前になっているのです。しかし1920年代までは頻繁に新しい作品が初演され、コンサートのなかで“問い”や“発見”を得ることができました。私はEICとともに、そういった音楽体験を改めてお客様にお届けしていきたいのです」 コンテンポラリー・ミュージックは巧い演奏で聴いてこそ、その面白さに気づくことができる。EICによる精緻を極めた演奏は、ブーレーズやジャレルの音楽の真価を教えてくれるはずだ。「ゲンダイオンガク」は苦手という人にこそ、この公演を体験してほしい。ピエール・ブルーズ

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